16 サリーナの後宮

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16 サリーナの後宮

   ◇◇◇ 「本当に愛しているのは君だと気がついたんだっ!私と結婚してくれっ!」 「嫌ですわ。わたくし、ここのハーレムのだらけきった生活が大好きですのっ!いまさら王妃になんてなりませんっ!」 「そ、そんな……」  がっくりと肩を落とす王子をリアナがポイッとつまみ出す。 「自分勝手な理由で追放しておいて今さら愛してるだなんて遅いですわ」 「「「そうよそうよ!馬鹿王子!国に帰れっ!」」」  そばでにやにやと笑いながら見守っていた令嬢達の声援に、ゴージャスな金髪の少女が手を振って答えている。  ここ最近のラクタス後宮ではこうした光景を見るのが日常茶飯事となっていた。 「なぁ、サリーナ、あれはいったい何の遊びだ?」  木陰でサリーナに膝枕をしてもらっていたアレクサンドルは、目の前で繰り広げられていた茶番を不思議そうに眺めていた。 「ああ、あれは、追放した元婚約者を追いかけてきた王子をみんなで追い返しているところですの。」 「なんでまた……」 「ラクタスでは国内外から身よりのない女性や生活に困っている女性を多く受け入れているでしょう?そうした女性たちの中には、婚約者に裏切られた令嬢や、夫に裏切られた婦人も多いみたいで。たまに心を入れ替えた元婚約者や夫が後宮(ハーレム)に保護されている方の元にやってくるのです。」 「ほお」 「でもほとんどの皆さんが、ああして追い返してしまいますの」 「やはり一度裏切った相手は、信用できないだろうな」 「それもありますが、皆さんラクタスが好きなんです。ここでは女性が、職業も生き方も自由に決めることができますから。のびのびと自分の人生を楽しみたいという女性に大人気なんです」  「それは嬉しいことだな」 「私も鼻が高いです!まぁ、後宮(ハーレム)の生活が快適すぎて出たくないという声も多いんですけど」  サリーナがてへっと笑う。 「仕方がないな。サリーナが腕によりをかけて甘やかしているんだから」 「だってアル様、アル様が私にしてくださったように、私も皆さんを甘やかしてあげたいのです。つらい心を癒やすには、甘い優しさが何よりの薬ですからね!」 「後宮(ハーレム)の主はサリーナだからな。サリーナが思うようにすればいい」 「ありがとうアル様!大好き!ところで私たち、そろそろ同じ部屋で暮らしませんか?」 「えっ?」 「だってアル様、夜はちっとも後宮にきてくださらないんだもの」 「いや、それは、だって、なぁ?」 「いやもだってもありません!結婚してもう1年になるのにっ!お母様から連絡があって、この前弟が産まれたそうです!ずるい!私もアル様の子どもが欲しいのに!」 「うーん……」  真っ赤になるアレクサンドルをサリーナはエイッと押し倒し、唇にチュッと口付けをする。  それをみていたリアナや令嬢達から一斉に声が挙がる。 「「「いいぞー!やっちゃえサリーナ様!王様のいくじなしっ!」」」 「さ、サリーナ……」 「私はもう立派な大人です!これ以上おっきくなりません!お母様も小さかったでしょう?アル様が襲ってくれないなら私が襲っちゃうから!」  アレクサンドルは両目を覆って倒れ込む。 「サリーナ、俺は毎日死にそうだ……これ以上お前を好きになったら心臓が止まりそうで怖い……」 「死なないでアル様?」  アレクサンドルはガバッと起きあがるとサリーナを軽々と抱え上げた。 「俺は今日からサリーナと一緒の部屋で過ごす!お前ら絶対に邪魔するなよっ!」  リアナと令嬢達、少し離れたところでアレクサンドル達を見守っていたゲインも、ニヤニヤと笑いながら手を振る。 「邪魔しませんからごゆっくり!はやく跡継ぎをお願いしますね!」 「うるさいっ!」 「アル様、私は早く欲しいです!」 「サリーナ……」 「だってアル様と私の子どもならきっと可愛いわ?サファイアの瞳になるか、アクアマリンの瞳になるか、どっちかしら?」 「そうだな」  アレクサンドルは優しく微笑むとサリーナにそっと口付けを落とす。 「な、ななっ!」  真っ赤になったサリーナに首を傾げると 「アル様!今のなに?」 「何って……キスだが?」 「ダメです!こんなところでしちゃ!」 「ダメなのか?」 「皆に見られたら恥ずかしいもの!」 「サリーナは大胆なんだか純情なんだかわからないな」  くくっと笑うとアレクサンドルはまたひとつキスをする。 「またっ!」 「仕方がない。サリーナが可愛いことばかり言うから、我慢できなくなってしまった。これから覚悟しろよ?」 「の、望むところですっ!」  ◇◇◇  それからサリーナとアレクサンドルは男の子3人、女の子2人の計5人の子供を授かった。  男の子3人はアレクサンドル譲りの絶大な魔力を持ち、プラチナブロンドにサファイアの瞳を持つ双子の女の子はその美しさからラクタスの宝石姫と呼ばれるようになったとか。  5人の子を産んでなお、少女のように美しいサリーナ王妃を、アレクサンドル王は生涯変わることなく愛し続けた。もちろんただ一人の王妃として。  完
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