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1 サリーナ姫の受難
◇◇◇
「ダルメール王国のサリーナ姫だな?」
「……」
「ふんっ、もったいつけやがって。そんなに俺が嫌なのか?確かに美しいが……なんて傲慢な女だ。良いだろう。今日からお前はこの俺の奴隷だ。この俺のハーレムで女奴隷として生きるがいい。その傲慢さがどこまで持つか見ものだな」
そう言うとアレクサンドル王子は憎しみを込めた目で睨み付けてくる。
「この俺を裏切ったこと。死ぬまで後悔するがいいっ!」
その日、数百年の栄華を誇っていたダルメール王国の名が大陸から消えた。名もなき小国と蔑ずまれてきた、たった独りの王子の手によって。
◇◇◇
『ダルメール王国のサリーナ姫』は、ダルメール王国の13番目の姫であり、『大陸一の絶世の美女』として名高い美姫だった。流れるようなプラチナブロンドの髪にアクアマリンの瞳。かの有名な歌人でさえ、夢見るような微笑みは悪魔をも蕩かせると言わしめた。
元々身分の低い側妃の娘として生まれたため、他の姫達に比べて身分は低い。しかし、大国ダルメールの姫であり、若干15歳でありながら、すでに完成されていたその美貌は多くの男達を惹きつけてやまなかった。年頃である正后の姫達には見向きもせず、サリーナ姫を求める求婚者が後を絶たなかったのだ。
欲深い王は考えた。この美しさだけが取り柄の娘を最大限に利用して、ダルメール王国に更なる富を得ようと。そこで総ての求婚者に内々に手紙を送った。
「サリーナは、あなたの元に嫁がせたいと考えている。しかし、
並み居る大国から求婚者が、後を絶たないため、今あなたとの婚姻を決めてしまうのは難しい。サリーナの婿として相応しいと誰もが認めるような贈り物を用意して貰えれば、すぐにでも求婚に応じることができるだろう」
こうして、連日連夜、ダルメール王国にはありとあらゆる財宝が届けられるようになった。国宝級の美しい宝石。贅を凝らした美しいドレスはおろか、領地すら差し出すものもいた。王としては笑いが止まらない。ほんの戯れに手を付けて生ませた、身分の卑しい、ちっぽけな娘が大金を運んでくるのだから。
◇◇◇
「みて!お父様!なんて美しい毛皮かしら」
「この、ドレス素敵ね!繊細な刺繍に肌触りもいいわ」
「最上級のピンクダイヤ!見たこともないほどの大きさだわ。この宝石は私が貰うわね!」
各国から貢ぎ物が届くたび、争うように奪い合う娘達を、王はニヤニヤした顔で眺めていた。
「ほらほら、愛しい娘達。贈り物はいくらでもある。好きなものを持って行きなさい」
「ありがとうお父様!この不愉快な小娘のことは腹立たしいけれど、この娘のおかげで素敵な宝石やドレスが手に入るのは嬉しいわね!」
「お前のような身分の低い娘、王宮に住まわせて貰えるだけでも、ありがたいと思いなさい!姫と名乗るのもおこがましいわ!」
サリーナは、醜く顔を歪めて罵る姉達を、部屋の隅でぼんやり眺めていた。サリーナ宛てに贈られたものは、何一つサリーナの手に渡ることはない。それは、当たり前のように父や姉達の所有物となる。
この王宮でサリーナに与えられたのは、王宮の片隅にあり、召使いの住まうようなちっぽけな部屋だけ。ガランとした部屋には必要最低限のものしかなく、そばで仕えてくれる召使いもいない。
物心付いたときから、豪華なドレスも宝石も、サリーナには縁のないものだった。王族として最低限度のものは用意してもらえたが、そのほとんどが姉たちのお下がりだ。姉達の着古したものや趣味に合わないと捨てられたものを工夫して着回していた。
シンプルなドレスを纏い、化粧も施して居ないというのに、それでもサリーナの美しさは見るものを惹きつけた。たった一度、他国の王子に王宮の庭を歩いていた姿を見られた事をきっかけに、瞬く間に大陸一の美姫の名を手に入れてしまったのだ。
「お前はもう、下がれ。お前に相応しいものなど何一つないのだからな」
王はサリーナにチラリと目をやると、邪魔だと言わんばかりに手を振った。
「はい、お父様」
サリーナが文句も言わずに出て行くのをふんっと鼻を鳴らして一瞥する。
「まことに可愛げのない娘よ。お前のような身分卑しいものは、顔も見たくないわ」
姉達も、サリーナが部屋から追い出されるのをクスクスと意地悪そうに笑いながら見ている。
「いい気味だわ」
「男を誑かすしか脳のない下品な娘よ」
「母親と同じね」
サリーナはギュッと手を握りしめると、足早に部屋を後にした。
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