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CASE10
3年前――
入学式を終えた真珠は廊下で鮮見とすれ違った。真珠は鮮見に会釈を交わす。
「あなたが鏡真珠さんですね。さっきの新入生代表挨拶はご立派なものでしたよ」
「ありがとうございます」
「これからも期待していますよ。では私はこれで」
鮮見は笑顔を見せて去って行った。
時は流れて、現在――
鮮見は勝端総合病院に搬送され個室にいる。しばらくしてから目を覚ました。
「ここは…?一体…?」
鮮見は自分が何故ここに運ばれたのかを理解できていないようだ。
「ようやく目覚められましたか…」
傍に勝端がいた。
「真珠ちゃんから聞きましたよ。鮮見さんが校長室で急に倒れたって。耳にたこが出来るくらい忠告したはずですよ。症状が重くならないうちに入院したらどうですかと」
「…すみません」
「謝ってももう手遅れです。真珠ちゃんはさぞ悲しんでいるでしょう…」
勝端はそう言って病室から退出していく。鮮見は大粒の涙を流していた。
勝端が出てきた所に真珠がやって来た。
「先生、校長の様子は…」
「何ともないわ。心配しなくても良いわ」と笑顔を見せる。
「そうですか…」
真珠は勝端の笑みが気になっていた。そしてこうも感じていた。
――絶対に何か嘘をついている。
その頃、生徒会室には残された3人と共に伝次がいた。伝次は「済まなかった」と言い頭を下げる。その姿に3人は呆気に取られている。
「鮮見さんに呼ばれてここまで来たんだ。確かに真珠のした事は許される事ではない。だが…」
伝次はそう言いながら数多の日記などを3人に見せた。
「これを見れば真珠がずっと苦しんでいた理由が少しは分かるだろう」
3人はその日記を読み進めていく。不意に伝次は口を開いた。
「昔の真珠は愛嬌もあって可愛かったもんだ。母親はいなかったが、それでも楽しく暮らしていたんだ。だが、3年前の事件が全ての歯車を狂わせてしまった」
伝次の表情はだんだん険しくなっていく。
「突如として真珠は性犯罪の被害に遭ったんだ。俺は元検事だったからな。俺は徹底的に追及したがそれでも不起訴処分が下った。それだけならまだ良かったかもしれない。だが、その後大きな問題が起こってしまった」
「大きな問題と言うのは、一体何なんですか…?」と箕田はおずおずと尋ねる。
「事件が起きたその後、警察の見解で被害者に落ち度があるような結果を出された。真珠はその後笑顔を見せなくなった」
「そんな…」と高木は悲しそうな顔を見せる。
「そればかりか俺たちにとっては事態がややこしい事になった。俺たちの間に家族関係が認められないという事実を突き付けられた」
「それって、まさか…」と真久部。
「そう。真珠の両親は俺ではない。全くの赤の他人だ。何者かによって取り違えられた。それに鮮見さんに知らされたんだ」
「どうして取り違えられたってわかったんですか?」と箕田が訊く。
「真珠はAB型だ。本来ならばO型とO型の親から生まれる子供は絶対にO型でなければならない。勝端君がそう教えてくれたよ」
3人は伝次の方に視線を向ける。不意に高木が尋ねた。
「あの…気になることがあるんです。あれだけ冷静な鏡さんがなんで人の首を絞めるような事をしたのか、未だにわからないんです」
「言われてみれば、あの時の鏡は本気で人を殺す目をしてた…」と真久部。
「何か心当たりみたいなのはありませんか?」と箕田も尋ねる。しかし伝次はかぶりを振るだけで何も答えない。
「鏡さん、少し休ませた方が良いと思います」と高木は急に話題を変える。
「どういう事だ」と伝次が身を乗り出す。
「実はこの数分前に鏡さんに殺害予告のメールが届いたんです」と高木はそのタブレットを伝次に見せる。そこには『鏡真珠、奴を絶対に殺す』とだけ書かれている。
「何…⁉」と伝次は動揺し、タブレットを手に取り凝視している。
「何者かに恨まれているかもしれません。とにかく気をつけてください」と箕田。
「わかった。真珠にも伝えておく。ただ反抗期真っ最中だからな。俺の言う事を聞くとは限らない」
伝次は部屋から出て行く。生徒会室のドアが閉まる音が響いていた。しばらく3人は日記等を見ている。すると高木が口を開いた。
「ねぇ、鏡さんって本当は弱い人なんだと思う」
「あの魔女が弱い?俺はとてもそういう風には見えないがな」
「普段からああやって振舞って僕たちにわがままを振りかざしているのも、あれは強がってるだけじゃないかもしれないって思う」
2人は溜息をつく。
「本当にお前は憶測だけで言いやがって」と真久部が毒づくが、箕田が「いや、高木がそう考えるのも無理はない。普段冷静な魔女の引き金を新井は引いた。本当の親じゃない親の元で18年間育ってきた。真実の愛情を知らずにずっとここまで来たことを内心苦しんでいたかもな」とフォローする。
「確かに魔女の心は穏やかじゃないだろう。ずっと慕っていた校長先生がいきなり病院に搬送されたり、脅迫メッセージが届いたりな。加えて俺たちの生徒会の任期も僅かしかない。残っている時間はあまり無い」
「もうこうなったら、僕等が全力でフォローするしかないでしょ」
「ああ。なんてたってこの学校を束ねるリーダーだからな」
3人は円陣を組み手を合わせる。
「この学校も、生徒会長も俺達で守る」
箕田の宣言に真久部と高木は小さく頷いた。3人の表情は覚悟が決まったかのような感じであった。
その夜、真珠は自分の部屋で一人引き籠っていた。そこに伝次がドアをノックする。
「真珠、ちょっといいか」
「…」
真珠は何も答えない。伝次はドアを隔てて喋り始めた。
「良いか。真珠、お前は1人で悩む必要はない。いい仲間に出会えたじゃないか。彼等と少し話をさせてもらったよ。お前のことをみんなが心配していたぞ」
伝次は生徒会室を去った後、3人の会話を聞き耳を立てて聞いていたのだ。
「全てを打ち明けたよ。少しでも真珠の事を分かって欲しくてな」
「なんでそんな事をしたの…!?私は彼等に弱みなんて見せたくない…!」
真珠は声を荒げる。
「私は最後の最後まで強い人間でいたいのに…!」
「虚勢なんて張るな。ずっと寂しいんだよな。でもお前には頼れる仲間がいるじゃないか。彼らを信じろ。俺が言いたいのはそれだけさ」
伝次は溜息をついて階段を下りていく。どうやら殺害予告を受けたことに関しては話す事が出来なかったようだ。
病院では出水が勝端と待合室で合っていた。出水はチョコ棒を勝端に手渡す。勝端は「ありがとう」と言い微笑んだ。
「ちゃんと知らせたのか?真珠ちゃんに鮮見さんの命が長くない事を」
「知らせたわよ」
勝端はそう答えて目線を逸らす。出水は「嘘つけ」と言い勝端に視線を向けた。
「なんでそんな事がわかるのよ」
「俺はこれでもキャリアで将来を嘱望されていた元警察官だ。お前、忘れてたわけじゃねぇよな」
「全然。それにしても嘘を見抜くなんて流石ね。まぁ、どうしても言えないわよ」
勝端もなんだか不安そうだ。ポケットから1枚の紙を取り出す。
「何だそれは」
「もしもの事があったらって言われて、鮮見さんに渡されたのよ」
出水は大きく息を吐く。そして話題を変える。
「購買部の女が言ってたんだ。真珠ちゃんを襲ったのは凛堂じゃないってな」
「あんなのただのデタラメでしょ。どう考えても凛堂以外あり得ないし」
「真珠ちゃんに脅迫メッセージが届いたらしい。だが、真珠ちゃんに恨みを抱いている人間は見当たりそうにない」
「じゃあいったい誰なの…?」
2人は思案に暮れているが中々答えが出ない様子であった。
翌日の昼、箕田と真久部と高木は3人揃って購買部に来ていた。
「あれ、ズッコケ三人組じゃん。揃いに揃ってどうしたのよ」
「それが…」
箕田は真珠が殺害予告を受けていることを告げた。
「ああ、あれね。恭ちゃん、あれはハッキングできないから気をつけた方が良いわ」
「どういう事ですか?」
円田は昨日の夜、送信した相手を特定しようとハッキングを試みたが、その瞬間、パソコンの画面にノイズが走ったのだという。
「報復ハッキングって事ですか」と高木はお金を払いながら尋ねる。
「そうよ。特殊なネットワーク回線を用いているから、あれこそ真珠ちゃんを狙っている人間が仕組んでいる罠よ」
円田はそう言いながら塩むすびと焼きそばパンとメロンパンをそれぞれ渡す。そして段ボールを取り出した。
「これは3日分のいちごミルクよ。真珠ちゃんに渡しておいて。貴方達は真珠ちゃんを支える騎士なんだから。しっかりと守ってあげなさいよ」
病院の外のベンチには鮮見が伝次と共にいた。
「すみません。こんな形になってしまいまして」
「いえ」
伝次は鮮見の顔をチラリと見る。
「鮮見さん。真珠の仲間に会ってきました。彼等は真珠の事を支えようとしてくれている」
「貴方の娘さんは素晴らしい仲間に出会ったんじゃないんですか」
「そう言ってもらえてありがとうございます。まぁアイツも不器用な所がありますし、周りが放っておけないのかもしれませんね。鮮見さん、最後まで真珠の事をよろしくお願いします」
「こちらこそ」
伝次は鮮見に向かってお辞儀をして去って行く。
放課後、真珠を除く3人は生徒会室で作戦を練っていた。机には退学させた22人の写真が載っている。
「一体誰なんだ…?」
「あの魔女に易々と近づける生徒がいるか…?」
「22人の中にいるとは限らないよね」
3人は長考しており手詰まりの状態だ。するとそこに真珠がやって来た。
「どこ行ってたんだ。心配したぞ」
箕田が心配して声をかけるが真珠はにべもなく「別に」とだけ答える。
「鏡さん、もう虚勢を張るのは止めようよ」と高木が言う。
「いきなり何よ」と真珠は振り向く。
「魔女狩りが始まっているんだぞ。少しは行動に気をつけろ」と真久部も咎めるような口調で言う。
「アンタ達には関係ないでしょ!」と真珠は怒り出し涙目になっている。
「それが関係あるんだよ。お前が殺害予告受けた事とな」と箕田が話に割って入る。
「…」
「親父さんが来てようやくわかったよ。どうして俺達に対して強く当たるのか。過去の傷に対して触れられたくないから、そして弱い自分を見せたくないからだろ」
真珠は図星を突かれたか黙っている。
「だったら俺たちは決めたんだ。残りの期間は全力でお前をフォローする」
「何回でも何千回でもな」
「だから僕たちを信じてくれる?」
真珠は少し沈黙した後、「わかったわ…」と小さく呟く。そしてしばらくしてからいつもの調子に戻り、「失敗したらタダじゃ置かないわよ」と言い放った。その姿に3人は笑みを浮かべた。
「ようやくいつもの調子に戻ったか。遅えよ」
箕田はいちごミルクを「差し入れだ」と言い、真珠に手渡す。
「22人のメールの送信履歴を探ることが出来るか。相棒」
「うん。時間はかかるかもしれないけど頑張ってみる」
真久部の問いに高木は力強く答える。
翌朝、勝端は真珠と共に保健室にいた。
「それで鮮見さんは今日は来られているんですか?」と真珠が訊く。
「そうよ。本当は反対だったけど、どうしても来たいからだってさ。何で大人しく出来ないのかね」と勝端は半ば諦めたかのように言う。
「鮮見さん本当に大丈夫なんでしょうか…」
「本人が大丈夫って言ってるから大丈夫でしょ」
真珠の問いに勝端は誤魔化しながら答える。次の瞬間、円田がなんと傷だらけで入って来た。
「どうしたの!」
勝端は円田の側に駆け寄る。
「いきなり、覆面を被った人間に襲われたわ…」
円田は途切れ途切れに話す。勝端は円田を手当てしている。すかさず真珠は尋ねた。
「襲ってきた人間に何か心当たりはありませんか?」
「それは真珠ちゃん、貴方よ」
「どういう事…?」
円田の答えに真珠の血の気が引いた。なおも円田は続ける。
「覆面を被った男はこう言ってたの。『鏡真珠はどこだ』と。恐らくタブレットに脅迫メッセージを送った人物で間違いない」
「でも未だに脅迫メッセージを送った人物は特定できてないわ」
円田と勝端はそれぞれ話す。真珠は突如として保健室のドアを開けて出て行った。
「真珠ちゃん、やめて!死ぬ気なの!」
「まさか、覆面を被った男を炙り出す気じゃ…」
「何にせよ早く止めないとマズいわ」
勝端はスマホを取り出し、電話をかける。その表情には不安が募っていた。
その頃、生徒会室にいる3人は引き続き作戦を練っていた。
「どうだ、高木。22人の中から該当者は見つかったか」と箕田が声をかける。高木は「該当者無し」とだけ答えた。
「使えねぇな」
「しょうがないじゃん。ハッキングしてもノイズが走んなかったんだし」
真久部と高木が小競り合いをしている中、箕田は何か手を組んで考えている。その時、ポケットに入っているスマホが震えた。電話の相手は勝端からであった。
「勝端さん?どうしたんですか?」
『大変よ。円田さんが覆面を被った男に襲われたわ。そしてその男を炙り出す為に真珠ちゃんが1人で保健室を飛び出して行ったわ』
「何…?」
『とにかく早く向かわないと一大事な事になるわ』
「分かりました。俺達もすぐ行きます」
箕田は電話を切った。
「どうしたんだよ…?そんな険しい顔して」と真久部が尋ねる。
箕田は今の電話の内容をそのまま話す。
「ホントに死ぬ気なのか⁉」
「とにかく向かわないと…」
真久部と高木は準備をしている。箕田は「行くぞ!」と言い生徒会室を出て行く。真久部と高木も慌てて追いかけた。
真珠は1人で覆面を被った男を追っているが、中々見つからない。覆面を被った男はナイフを片手に持ち、真珠の後ろに忍び寄っていく。箕田達がやって来たのはその時だった。覆面を被った男は真珠との距離を詰めていく。
「真珠!後ろだ!」
箕田の叫び声に真珠は振り向く。覆面を被った男は真珠を刺そうとする。今まさに真珠の心臓を貫こうとした瞬間、何者かが真珠の前に割って入った。
「…!」
覆面を被った男の見つめる先には鮮見が立っていた。鮮見は身を挺して真珠を守ったのだ。
「貴様…!」
「私の娘には…指一本触れさせない…!これで…終わりよ…」
そう言った後、鮮見は膝からくず折れた。男はナイフを抜いて再び真珠に刃を向ける。箕田と真久部は素早く反応し男からナイフを奪い取った。男はすぐにファイティングポーズを取る。
「やんのか。かかってこいよ」
箕田はそう言い、指で挑発する。男は大きなパンチを繰り出すが、2人の身のこなしは素早く中々当たらない。背後を取った真久部は膝に思いっきりローキックをお見舞いする。その一撃で男は崩れ落ちた。待ってましたとばかりに箕田は顔面にパンチを喰らわせダウンさせた。立ち上がろうとする男の前に今度は高木が目の前に立つ。
「ごめんね」
高木は笑顔でスプレーを男の顔面に噴射した。男は目の痛みに悶えている。その隙を見逃さず箕田と真久部は男を羽交い絞めにした。
「今だ、相棒!」
真久部の声掛けに高木は反応する。高木は出水から渡されたおもちゃの手錠を使い、男に手錠をかけた。尚も男は暴れようとする。
「動くんじゃねぇよ!」
箕田は立ち上がらせ、男の頭を掴み覆面を取る。その男はなんと乙霧だった。乙霧は不敵な笑みを浮かべている。
「テメェ…⁉校長先生によって放り出されたはずだろ…⁉」と箕田は動揺している。
「ああ、そうさ。俺は一度は放り出されたさ。だがな、復讐する時を待っていたんだよ!鏡真珠。お前を殺す為にな…!」
乙霧の表情は狂気みじている。さらに乙霧は続ける。
「お前達のような正義を気取った連中が聞いて呆れちまうぜ。さぞ気持ち良かっただろうな。お前等は人の人生を狂わせておいて何も罪悪感など感じちゃいない。退学させられた人間の代わりに俺がやって来たんだ…!」
真珠は視線の先を乙霧に向ける。その時鮮見が力を振り絞って真珠の腕を掴んだ。
「校長…?」
「鏡さん…よく聞いて…貴方の本当の母親はこの私…貴方の本当の名前は…」
鮮見はその言葉を最後に息絶えた。
「鮮見さん!どういう意味ですか!目を覚まして下さい!」
真珠は必死に呼びかけるも鮮見は既に動かない。その姿を見て乙霧は嘲り笑う。
「愚かな母と娘だ。お前を庇って犬死したのも全てはお前のせいだからなぁ?」
乙霧は煽るように罵る。その言葉に反応した真珠は転がっているナイフを手に取る。真珠はゆっくりと乙霧の方に近づいていく。
――まさか…刺す気か…?
3人の表情に焦りが生じる。真珠の顔は能面のように血が通っていない。そのまま乙霧の腹を刺そうとする。すると突然「よせ!」と大きな声が響いた。その瞬間、真珠の手からナイフが音を立てて落ちた。
真珠が横を振り向くとそこにいたのは伝次と出水だった。
「間に合って良かった…」
「済まないな、出水君。ガソリン代は後で払っておくから」
伝次は大きく息をしている。
「父さん、何で…?」
「勝端君から連絡を受けて飛んできたんだ」
伝次はゆっくり歩み寄って真珠の手から零れ落ちたナイフを拾う。その目は乙霧を捉えている。
「なんだ、父親までやって来たのか。俺を刺す前に良い事を教えてやるよ。3年前にお前の娘を襲ったのはこの俺だ!」
「何だと…?」
「警察と検事の権威を失墜させる為に俺たちが仕込んだのさ。ハッハッハ!」
伝次はナイフを持つ手を震わせている。
「おっ、刺すのか?やってみやがれ。この能無しヘタレ男が」
乙霧の高笑いが続いている。伝次はナイフを地面に落とした。
「やっぱり刺せないよなぁ。お前なんかに」
すると伝次は突然、乙霧の顔面にパンチを食らわせた。いきなりの出来事に乙霧は動揺している。真珠も普段頼りない父親から人を殴る力があったのかと驚いている。
「な、何すんだ…テメェ…⁉」
「本当はお前の顔を見たくもない。だがな、お前を殺す価値も無い」
伝次はそう吐き捨て、もう一撃食らわせた。
「お前は正当な法で裁かれて、そのまま地獄へ落ちろ」
伝次は動かなくなった乙霧を見下ろすように吐き捨てる。乙霧の鼻からはまだ血が流れていた。
その後、鮮見は死亡が確認された。乙霧も殺人の容疑で逮捕され取り調べが続いている。乙霧はその後の供述で3年前の事件に関して自供した。しかし共犯した男に関しては一切の黙秘を貫いている。
生徒会室で真珠は1人で涙を流し座っていた。そこに勝端がやって来た。
「鮮見さんからの遺言よ」
勝端はそう言い、立ち去ろうとする。
「知ってたんですよね…⁉」
「え…?」
「校長先生がもう長くない事も、私の本当の母親が校長先生だったって事も、
何で今まで黙っていたんですか!」
真珠は勝端に怒りを見せ詰め寄る。
「言おうとは思ってたわ。でも、言えなかった。今まで信じてきたものが崩れたらと思うと言い出せなかった…」
真珠は何も言わず目線を下に落としている。
「ごめんね。真珠ちゃん。でも、この遺言は校長先生としてではなく、1人の母親として貴方に書き残したのよ。読まないで捨てたりなんかしたらきっと一生後悔するわ」
勝端は詫びを入れて生徒会室を後にした。1人になった真珠はその遺言を読む。文字は大人の女性が書いたと思えないくらい乱雑だ。
『鏡さんへ。これを読んでいる頃には私はここにいません。謝らなきゃいけないことがあります。貴方の母はこの私です。ずっと言えずにいた事を謝罪します。
貴方のような生徒に出会えた事は、私の人生の最大の誇りです。これからは『鮮見真珠』として生きてください』
真珠は読み終わった後にひとしきり泣き出した。その泣き声は生徒会室の外に響いている。外にいた箕田と真久部と高木はそれぞれ暗い表情を浮かべていた。
その頃、円田は全ての顛末を出水と伝次から知らされた。
「そう…」
円田は言いながら唇を噛む。
「鮮見さんは真珠の事を最後まで気にかけてくれていたんだ」
「真珠ちゃん、これ以上傷つかなきゃ良いな…」
出水の呟きに伝次は頷く。
そして月日は流れて―――
高校を卒業した真珠は家を離れて1人で暮らす事になった。伝次が車で送っている。
「最後の最後まで頼りない父親で申し訳なかった」
「ううん。お父さんがいてくれたからここまで来れたの。感謝してるわ」
「そうか」
会話をしている内に目的の駅まで到着した。2人が到着してしばらく歩くと、そこには他の3人が立っていた。
「君達…」
「何でいるのよ」
「何でって、俺達を放ったらかしにしてここを去るなんて寂しいんじゃないのか?生徒会長様」
箕田はおどけている。
「最後まで見届けさせてくれよ。魔女の出発を」
「僕らは皆、チームなんだから」
真久部も高木も続けた。真珠は少し困惑している。伝次は声をかけた。
「君達ありがとう。是非よろしく頼む。どうしようもなく不器用な娘の旅立ちを見届けてやってくれ」
「わかったわよ」
しばらくして電車がやって来た。
「今までありがとうな。生徒会の魔女。もし何かあったら俺達を頼れよ」と箕田。真久部と高木も頷き、伝次も笑みを浮かべている。
「じゃあね」
そう言って真珠は電車に乗り込んだ。その姿を4人は見届けていた。
席に座った真珠は左手の薬指にはめているマーガレットを模したピンキーリングを眺めている。鮮見が遺言の中に入っていたものだ。
『これからは『鮮見真珠』として生きてください』
鮮見の心の叫びが聞こえた気がした。
真珠を乗せた電車は目的地まで進み始めた。
その頃、とあるライブハウスでは、ガイ・フォークス・マスクを被った男による演説が始まっていた。
「皆の者!よく聞け!この私がたった今、ゲンティアナを復活させる!ここにいる1人1人が我々の信者だ!」
覆面を被った男の力強い声に拍手が起こり、口笛が鳴らされている。
「ゲンティアナのリーダーはこの俺だ!ショータイム!」
どことなく黄色い歓声があがり、男はマスクを取る。
「この俺の正体をとくとご覧あれ!」
男の顔にライトが照らされている。その男は凛堂竜一であった――
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