CASE2

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CASE2

3年前―― 出水は警視庁の生活安全課に赴いていた。鮮見の姿を見るなり詰め寄る。 「おかしいでしょう…⁉いくら何でも不起訴なんて、そんなの認めませんよ!」 「私にもわかりません…確かに私もおかしいとは思いますが…」 「圧力ですか…?」 「…」 鮮見はただ黙ってその場を去って行く。出水は怒りに震えている。 伝次は最高裁判所の廊下を歩いていた。上司である宮下潔に声をかける。 「まだ娘さんの事件にこだわるんですか?貴方も随分としつこいですねぇ」 「あの犯人がやったという証拠は全て揃っているんですよ!何故不起訴なんですか!?刑法が改正されて、性犯罪は親告罪ではなくなった。だから証拠がそろっていれば検察官は起訴できるんですよね⁉」 「合意があったとか言われています。そして被害者が起訴を望まないと」 「ふざけないでいただきたい!真珠は、娘はそんな事を一切望んでいない!」 宮下は鬱陶し気な表情を見せる。そして伝次の顔を見据えて言った。 「鏡君。君はもうこの担当から外れて頂きたい」 伝次は一瞬、言葉を失った。 「何とおっしゃいましたか」 「娘さんの事件に関してはもう口を挟まなくていい」 「どういう事ですか」 それでも尚、伝次は宮下に食い下がる。 「娘を見捨てろっていうんですか!」 「有体に言えばそういう事です。親族が関わると事態をミスリードされかねませんからね」 その言葉に伝次の表情は凍り付いた。そして宮下は畳みかけた。 「いくら何でも実の娘じゃない人間に肩入れするなんて滑稽な事ですよ。残念ですが、君の意見は聞くに値しない。さっさとここを去ってください」 宮下は廊下を再び歩き出す。伝次はその場で立ちすくむ。宮下の言葉が頭からこびり付いて離れない。 ――実の娘じゃない…?そんなバカな… 現在―― 真珠は校長室で鮮見と対峙していた。 「『R計画』は順調に進んでいます。それがこれです」と言い、書類を見せる。鮮見はその書類を眺める。 「これだけではまだ足りません。『R計画』の完成には程遠い」 「そうですか」 『R計画』と呼ばれるその物は鮮見が恩多高校に赴任した時に作られた極秘裏の計画である。その計画を真珠が実行に移している最中である。 「私はそんなに長くこの学校にいるわけではありません。貴方も時間は限られています。すぐにでもよろしくお願いします」 「わかりました。失礼します」 真珠は頭を下げて、校長室から退出していった。出て行ったタイミングを見計らって鮮見は薬を1錠服用する。 校長室から出てきた真珠は箕田と遭遇した。真珠は怪訝な表情を浮かべる。 「盗み聞きするなんて良い度胸ね。聞かれた以上はタダじゃ済まさないわよ」 「誰がお前の話を盗み聞きするんだ。何も興味ねぇよ」 真珠はフンと息を鳴らす。箕田は構わず尋ねた。 「校長と何を話していた。鮮見さんは生徒と関わらない人間だという事はお前も知っている。何か裏があるだろ」 「私は生徒会長だから特別なのよ」 「まだ言うか。お前と俺は対等な立ち位置だぞ」 「私の方が断然上よ」 2人は言い合いながら廊下を歩いている。すると箕田は口を開いた。 「聞いてるか。良からぬ映像がネットを騒がせているみたいだな」 「それが何よ」 「円田さんから報告が無かったのか。悪質な行為を行っているのがこの学校の生徒らしい。調査する価値はあるだろ」 勝端は保健室で1人パソコンを操作していた。そこにやってきたのは出水だった。 「何で来るのよ。ここに無断で立ち入るなんて」 勝端は何やら不満があるそうだが、出水は構わずチョコ棒を差し出す。「差し入れだ」と言い丸椅子に座る。 「何かわかったんだってな。それを見せてみろ」 勝端はその書類を見せた。出水は書類を見た途端、途端に険しい表情を見せる。 「どういう事だ…?」 「見ての通りよ。ありえない結果だから」 「真珠ちゃんの親は一体誰だ…?」 出水が見たその書類は親子鑑定である。真珠の親である伝次と真理愛は2人ともO型であった。しかし真珠はAB型である。 「O型とO型の両親から生まれる子供は100%O型。本来それ以外の血液型になる事は無いのよ。絶対にありえない」 「真珠ちゃんはAB型だったな。だとすると…」 「本来の親はもしかしたら別かもしれない。伝次さんじゃなかったら、一体誰なの…?」 一方、その頃E4は全員集まっていた。高木が流していた動画には人を殴る映像が映っていた。 「ひでぇもんだ。こんな映像が世に出回ってんのかよ。開いたマウスが塞がらないな」と真久部は呆れている。 「ハッピースラッピング。面識が全くない人間にそれを撮影した映像を公開し楽しむといった悪戯と称する一連の行為だ。外国ではそれなりに社会問題化しているらしい」と箕田。 「死亡事件も起きたケースも珍しくないんだよ」と高木も付け加えた。 「この学校の生徒が関わっている」と真珠も会話に割って入る。箕田は「この映像に映っているのが今回のターゲット」と言い、1枚の紙を机に広げた。 「今回吊るし上げるのは篠田慶。3ーAの生徒だ」 その顔を見た瞬間、高木は呟いた。 「何ていうのかさ。雰囲気が読めない顔だよ。とにかく普通の奴じゃないよこんなの」 「余分な事を喋り過ぎだ」と真久部が高木の頭を叩く。 「だってそう見えたもん」 「当てになるのかよ」 「いや、高木の言う通りかもな。確かにここで吊るし上げている人間はどいつもこいつも普通じゃない、訳アリの人間ばかりだ。なぁ魔女」 箕田はそう言いながら真珠の方に視線を向ける。真珠は「何で私の方を見たのよ」と不服そうだ。 「お前が一番問題あるだろうが。校長とグルになって何を企んでんだ。まさか俺たちに言えない何かを隠しているんじゃないだろうな」 「え、そんなことしてんの?」と高木が興味を持つように前に乗り出す。真久部も「さすが生徒会長様だな」と揶揄うように言う。 「知らないわ。私がどこで何をやっていたって勝手な事。さぁ動くわよ」 真珠の一声で皆は一斉に動き出す。真珠は振り返り『R計画』に関する資料を1人眺めていた。 その頃、伝次はただ1人、寒白中学校の事務室で作業していた。彼が勤めている寒白中学校は真珠が在籍し卒業した中学校である。1人の若い男性が声をかけてきた。 「鏡さん。こちらのデータ打ちをお願いします」 「了解」 伝次は再びパソコンを操作して作業を進める。大きな溜息をついてただひたすらに手を動かしていた。 昼頃、箕田は購買部に立ち寄っていた。円田の姿を見るなりウインクをする。 しばらくして順番が回って来た。箕田は塩むすびを注文する。 「あら、來ちゃん。カッコつけちゃって。そんなに私に気に入られたいの?」 「いえ、別にそんなんじゃないですけど」 箕田は目線を逸らしごまかした。そして「この生徒の事に関して調べて欲しいんですけど」と言い、篠田の写真を見せる。 「この子は優秀な両親を持ち、弟も優秀。ざっといえばそんな感じね。比べられる事も多かったわよ」 「なるほどねぇ。詰まる所、コンプレックスを抱えているって訳か。その憂さ晴らしにハッピースラッピングをやっている事だ」 箕田は塩むすびの袋を破り、一口頬張る。しばらくして円田が声をかけた。 「そういえばさ、真珠ちゃんとはどう?良い感じ?」 その言葉を聞いて箕田は咳き込む。 「ちょっと、何を聞いてるんですか。アイツほど心のどこかが欠如している人間はいませんよ。あんな奴、好きでも何でもないです」 「そんな事言っちゃって。ホントは心配なんでしょ」 「アイツを心配したことは一度もありません。とにかく失礼します」 箕田は顔を赤くして、その場を去って行く。円田はそんな箕田を見て「フフッ。全く可愛いんだから」と言い微笑みを浮かべた。 放課後、真久部は箕田と共に篠田が行っているとされる塾に潜入していた。箕田は篠田の姿を一瞥する。真久部は篠田の後ろに座り発信機を取り付けた。 「今のところは不審な動きは無し」 「引き続きマークする。高木、奴の身辺の情報を探れるか」 箕田は既に帰宅している高木に通信機越しに指示を送る。高木は『詳しく調べてみた。篠田はこの恩多高校の入学試験、下から数えた方が早いくらいの成績だった。そして今も成績最下層を彷徨っているみたい』と情報を読み上げる。 「もっと他に無いのか、『タトゥー』」と真久部も声をかける。 『その他にも調べてみたら入学する前に彼の父親の口座から100万円を何者かに送金した後が残ってたんだ』 「いわゆる裏口入学って奴か」と真久部が呟いた瞬間、講義が終わった。真久部は講師に近づいた。真久部はボールペン型のボイスレコーダーのスイッチを入れる。 「すみませんが、篠田という生徒に関して聞きたいんですが」 「何でいきなり?」 「ちょっと気になってまして」 講師は篠田に関して喋り始めた。 真珠は木春菊を訪れていた。真珠は瓶コーラを1本注文する。 「そういえば、出水さんって警察官だったんですね」 「なんで知ってるんだ」 「勝端先生が教えてくれたんです」 「よくもまぁ、ベラベラと喋りやがって。確かに俺は昔は警察官だった。親父が体調を悪くしてここを継ぐ為に退職したけどな。そういうお前の親父さんも元検事だったらしいな」と出水は瓶コーラを1本真珠に差し出しながら答える。 「知ってるんですか?」 「刑事と検事は切っても切れない関係だ。俺も何度か伝次さんに世話になった」 真珠の顔が曇り出していく。それを見て「伝次さんは今どこで何してるんだ」と尋ねる。 「私のせいで検事を辞めた」 「え…?」 「3年前の事件、私は性犯罪の被害に遭った。今でもその犯人が夢に出てくる事もある。お父さんは私の為に力を尽くしてくれたのに…」 「真珠ちゃんのせいじゃない。悪いのは犯人だ」 真珠は視線を落とす。出水はココアシガレットを口に咥えて大きく息を吐く。そして話を切り出す。 「勝端から聞いたぞ。生徒会長になったのは校長の推薦で選ばれたとか」 「そうです。でも何で私が…?」 「校長が何か秘密を知っているかも知れない。まぁくれぐれも気をつけなよ」 真珠は店から退店していく。出水は頬杖をついてその様子を見守っていた。 その後、自宅に帰ってきた真珠は『R計画』に関する資料を部屋で眺めていた。すると鞄の中に入っているスマホが鳴った。電話の相手は伝次からである。 『すまん、ちょっと遅くなりそうだ』 「そういう事なら早く言ってよね。何も夜ご飯を買って来てないのに」 『悪かったって。冷蔵庫にあるもので適当に食べててくれ』 「わかったわよ」 電話はそこで切れた。真珠はスマホをベッドに放り投げる。そして再び資料をに目を通す。 しばらく読んでいた真珠だが、ある文章に目を見開いた。 『このR計画は私にとって理想の学校を作る為にある』 翌日、E4は生徒会室に全員集まっていた。真久部と箕田は昨日の出来事を報告する。 「昨日の塾帰りに篠田の後をつけた。彼は何者かと合流してる。ただ覆面をしていたから詳しくは分からない」 「ただ、篠田がビデオカメラを持っている姿は確認できた。おそらくハッピースラッピングの動画を流していたのは篠田で間違いない。覆面を被った2人が恐らく襲っている実行役だろう」 真久部と箕田がそれぞれ言う。高木も「篠田慶の成績に関してもっと詳しく調べてみたら、偏差値は全然満たしていないみたいだ」と報告する。 「ここの偏差値って大体60ぐらいよね」と真珠が話に割って入る。 「うん。確かに彼は本当に進級すら危ういレベルだったみたい」と高木も付け加える。 「振り込んだのは父親…」と真久部が呟く。 「じゃあ、その後ろにいる人間は一体誰だ…?」と箕田も思案顔になる。するとその途端、円田が生徒会室に入って来た。手には大きな籠を持っている。 「みんなやってる?」 「どうしたんですか?」 「余っちゃったからおすそ分けに来たのよ」と言い、真珠にいちごミルク、箕田に塩むすび、真久部に焼きそばパン、高木にメロンパンをそれぞれ手渡した。 「この事は内緒ね。流石に経費では落ちないから」 「ありがとうございます」 「それと篠田の事なんだけど、2日前に弟が覆面を持った何者かに襲われたらしいわ」 その言葉に4人の表情が変わる。真珠はすかさず「篠田慶が関わっているという事でしょうか」と尋ねる。 「そう捉えてみてもいいかもしれないわ」と円田。 するとその時、高木が立ち上がりタブレットを見せた。 「実は篠田が襲った人間に何か共通点があるかどうか調べていたんだ。そしたら全員、子供の頃からIQ130越えをしていたみたい」 「篠田はIQの高い人間を狙っていた…?」と箕田。それを聞いた真珠は「ギフテッド」と呟いた。 「は…?なんだそれ。聞いたことが無いぞ」と真久部。 「簡単に言えば生まれつき、特別な才能や高い能力を贈られた子どもの事よ。私の知り合いにも3歳ごろに掛け算をマスターしたっていう子がいたわ」と円田が説明する。 「円田さんが言ったように、IQが130を超える人たちが生まれつき知的能力が高いギフテッドに該当するわ」と真珠も付け加える。 「劣等感を抱いている兄が弟を襲撃したっていう事だろうな」 「そしてさ、襲われた場所の距離を算出してみたんだ。篠田の襲った場所の距離は3kmの間隔が空いていた」と高木は言いながらタブレットを全員に見せる。全員はそのタブレットを眺めている。 「最初に襲った所から3kmの間隔から算出すると、次に襲うのはこの場所か」と真久部。すると真珠が「待って、この場所はギフテッド教育をやっている学校よ」と険しい表情をしながら言う。 「じゃあ、今度こそ止めないと…」 「ああ、奴は優秀な人間に劣等感を抱いている。次で止めないと、とんでもない事になる」 メンバーは全員タブレットに表示されている地図をただ黙って眺めていた。 その頃、校長室では鮮見と勝端が向き合っていた。 「校長に1つお聞きしたいことがあります」 「何でしょうか」 「貴方どうしてそこまでに鏡真珠に肩入れするのでしょうか。そして何故、立候補制ではなく校長の推薦で彼女を生徒会長にしたんですか?」 「特別な理由は特にありません」 鮮見はそう言ったきり黙っている。勝端は間髪を入れずに尋ねた。 「鏡真珠だけではありませんよね。箕田來、真久部狩人、高木恭介も貴方の推薦で選んだ。そして彼等の過去を知っていた。鮮見さん、何か裏みたいなのあるんじゃないですか?」 「あの4人は極めて優秀な人材です。優秀な人材をトップに据えるのは必然でしょう。話が無いならそこまでですよ。さっさと帰りなさい」 「誤魔化さない方が身のためですよ。鮮見さん」 勝端はそう吐き捨てて校長室を去って行った。 放課後、篠田はその学校に覆面を被った2人組と共に到着をしていた。「見つけた」と卑しい表情を浮かべて一歩ずつ進んでいく。すると「次は天才狩りか」と後ろから声をかけられた。 振り返るとそこにいたのは箕田と真久部だった。2人は篠田に詰め寄る。 「なんでわかったの」 「お前が人を襲っていた場所から距離を算出したんだ。3kmピッタリの間隔だったんだよ」 「となると、次にお前が人を襲う場所はここって訳だ」 篠田は気怠そうに「だから天才とか選ばれた人間ってのは嫌いなんだ。お前らなんかに俺みたいな落ちこぼれの気持ちがわかってたまるか!」と吐き捨てる。 「そんな事、誰もわかんねえよ。そもそもお前の気持ちなんか知る必要もない」と真久部は鼻で笑う。「100万円の裏金を作って合格した奴が何を言うんだ」と箕田も呆れ気味に言う。 「なんでそこまで知ってんだよ!個人情報まで踏み込んできやがって!何やっても良いと思ってんのかよ!」 「ああ、俺たちはそういう組織だからな。何やっても許されるんだよ」 「お前みたいなクサレ人間を学校から消すためなら、手段は選ばない」 すると覆面を被った男が2人に襲い掛かって来た。攻撃をかわした2人はすぐに戦闘態勢に入る。 「随分と荒っぽい歓迎だな」 「これが最後のパッピ―スラッピングにしてやるよ!それでこの動画を拡散してやる!」 「かかって来いよ。制裁を受けるのはお前の方だけどな」 箕田と真久部はバットで殴りかかって来た2人組と応戦する。箕田はボディーブローを腹に打ち込み、真久部は覆面の男の頭に思いっきりヘッドバットを喰らわせてあっという間に退けた。 「たわいもねぇな。もう終わりか?」と真久部。 「おい、魔女。そっちはどうだ?」と箕田も通信機越しに真珠を呼び出す。 『今、あっという間に動画にコメント欄がぎっしり埋まってるわ』と生徒会室でいちごミルクを飲みながら真珠は答える。高木も『すごいよ。2人はヒーロー扱いされているみたい』と大声をあげる。 「もう終わりだ。いい加減諦めるんだな」 「ふざけんな!この野郎!」 篠田はナイフをズボンのポケットから取り出して箕田に向かってくる。しかし真久部が瞬時に反応し篠田からナイフを奪い取り、そのまま投げ飛ばした。コンクリートに打ち付けられた篠田は大きな声をあげた。 「ダメじゃないか。ちゃんと受け身を取らないと」 「ジ・エンドって事だ。おい、魔女。お決まりのセリフを彼に聞かせてやりな」 箕田はスマホを篠田の顔面に近づける。真珠はスマホ越しに言い放った。 『貴方の学校生活はここでピリオドです』 「そういうわけだ。残念だったな」 箕田は1発、篠田の顔面を目掛けてパンチをお見舞いした。篠田はそのまま気絶して動かなくなった。 真珠は今回のケースが終了したことを鮮見に報告するために校長室に赴いていた。 「今回のケースも無事に成功しましたか」 「はい、諸々の手続きなどは――」 「私が代行しておきます。貴方達は引き続き『R計画』を実行してください」 鮮見はゆっくりと立ち上がる。 「はい、ご心配しなくとも、私は校長の夢である『理想の学校を作る』事を実現させて見せます」 真珠は嬉しそうな笑みを浮かべていた。 廊下を歩いている真珠の元に勝端が寄って来た。 「校長には気を付けた方が良いわよ。真珠ちゃんの秘密に関して何か知ってるかもしれないわ」 「出水さんからも同じこと言われました。校長先生が何で私にここまで肩入れするのか…」 「あの狸女、信じない方が身のためかもね」 勝端は真珠にそう言い残して再び廊下を歩き始めた。 翌日、E4は全員集まっていた。 「ねぇ、聞いた?篠田の奴、退学になったばっかりじゃなくて警察に逮捕されたって」と高木が椅子から立ち上がり話しかける。 「そりゃあそうだろうな。まぁこれで懲りただろう」と真久部が大きな欠伸をしながら言う。 「ホントにくだらないもんだ。こんな奴の為に時間を割くなんてな」と箕田は呆れたように声をあげる。 「あら、私は好きよ。なんてったって私たちは人の役には立っているのだから」と真珠はいちごミルクを飲み干しながら言う。 「お前からしてみれば暇つぶし。ただの退屈しのぎじゃねえか」と箕田が突っ込むが、「つべこべ言わないで私の為に働きなさいよ。私はこの学校の生徒の中で一番偉いんだから」と真珠も嫌味で返す。 「まだ言うか。お前と俺は対等な立ち位置だって言ってんだろ」 「はいはい、なんとでも言ってなさい。私の方が断然上だから」 2人は言い争いを続けている。高木は「あーあ。もう、またやっちゃてるよ」と呟いている。真久部は「全く、不毛な争いだぜ」と疲れた様子を見せた。 出水は1人、木春菊にいた。そこにやって来たのは伝次だった。 「鏡さん…?」 「出水君、久しぶりだな。3年前を最後に見なくなったと思っていたが、こんな所にいたとは。一体何があったんだ?」 「この3年の間、俺にも色々な事が有ったんですよ」とつまらなそうに言い、瓶コーラを1本飲み干した。 「俺に何か話していないことがあるだろ。3年前の事件とか」 「いえ…」 「その反応は間違いなくあるな。とにかく話せ。俺は父親として、3年前の出来事を知る権利があるんだ」 伝次の目はしっかりと出水を捉えている。出水は訥々と語り始めた。
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