CASE9

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CASE9

ある日、保健室にいた勝端は備品の整理整頓をしていた。慣れた手つきで作業をしていたが、突如としてその手が止まった。 「マーキュロクロム液が無い…どうして…?」 勝端は辺り一帯を探すが、探しても見つからないようだ。するとそこにやって来たのは1-Eの担任である眞殿英美里だ。 「あら、どうしたんですか?」 「実は…」 眞殿は勝端に妊娠しているという事情を話した。その話を聞いて勝端の表情が緩む。 「おめでとうございます!」 「ありがとうございます。ですが最近、私への風当たりが強くなってきているんです」 「どうされたんですか…?」 「生徒たちが私の授業を聞いてくれなくなったんです。そればかりか『あいつセックスしたんだよ。教師の癖に』って聞こえよがしに陰口を叩かれたんです」 眞殿の口調はどうも悲しそうだ。勝端も「よく、保護者からのクレームが多いですからね。ですが、気にする必要はないと思いますよ」と励ますように言う。 「そうですか…」 「元気な子供の姿を見せられる事、楽しみにしていますよ」 笑顔を見せて眞殿は保健室を去って行く。その時、入れ違いで円田が保健室に入って来た。 「何の用ですか?」 「へー、妊娠したんだ。眞殿先生。妊婦までこの学校にいて、ますます医師としてのやりがいがあるんじゃないですか」 「揶揄いに来たのなら出て行ってください。貴方のようなバカにつける薬はありませんよ」 「はいはい。わかりましたよ」 扉を開けた円田は帰るふりをして、途端に振り返る。 「何ですか…⁉」と勝端の口調は怒りを帯びている。 「鮮見のオバサン、結構重病かもよ?そろそろ入院するように言わないと手遅れになるわ」 「言ったけど聞かなかった。真珠ちゃんの傍にいたいからって」 椅子に座った円田は興味無さそうな表情を向ける。するとねっとりした視線を向ける。 「でさ、話題を変えるけど、リツコ先生は未成年者が子供を産むって事に関してどう思ってんの?」 「どうって…私は絶対に反対よ。身体も出来上がっていないのに子供産むなんて、そんなの絶対にありえないわ」 「もしかしたら、この学校にもいるかもしれないわよ?なんてったって私はこの学校の情報屋だから」 勝端はその言葉に手を止める。手から離した消毒液の入ったスプレーが落ちる音が響いていた。 その頃、真珠は校長室で『R計画』に関する資料を鮮見に見せていた。 「既に21人の生徒を退学させ、期限までの目標人数に達成しました」 鮮見はその資料を見て笑顔を見せる。 「貴方のような優秀な人に出会えたのは誇りです。これからもこの学校の風紀を守り続けて下さい」 「わかりました」 真珠は頭を下げ校長室から出て行った。 一方、生徒会室では箕田が真久部と高木に真珠の過去を話していた。 「あの魔女にそんな過去が…」 「だからあんな非常な性格になったんだ…」 2人は驚き声が出ない。尚も箕田は続けようとするが、そのタイミングで真珠が生徒会室に入ってきた。 「言っちゃったのね…」 「一生隠そうなんて、そんなのは絶対無理だろ。俺たちも生徒会の任期もあと少しだ。このまま知らせないまま逃げるつもりだったんだろ」 「そんな事は…」 「だったら、こっからは自分の口で話せ」 「…」 真珠は話そうとするがなかなか言葉が出てこない。それを見て箕田は煽る。 「どうした、言えないのか。そうりゃあそうか。自分が性犯罪事件の被害者だなんて言える訳がないよな」 その言葉に反応した真珠は椅子に座っている箕田に思いっきりビンタをお見舞いした。真久部と高木は驚いた様子を浮かべている。 「アンタにはデリカシーってものがないの…!?」 「デリカシーだと?笑わせるんじゃねぇよ。今さら何を言ってんだ」と箕田は鼻で笑う。その態度に真珠は箕田の胸倉を掴んだ。 「私はこの学校で一番偉いのよ。それを忘れたなんて言わせないわよ」 「またそれか。いい加減聞き飽きたぞ、そのセリフ。俺とお前は対等だ」と言い、箕田は真珠の手を引きはがした。 すると、生徒会室に勝端がやって来た。 「あら、痴話喧嘩の真っ最中?」 「いえ…」 「そんなんじゃ…」 真珠と箕田の間にはギスギスした空気が流れている。そんな空気を変えるように高木は「どういった用件でここに来られたんですか?」と尋ねる。 「1-Eの担任である眞殿先生が妊娠したのよ。それを報告にしに来ただけよ」 「眞殿先生は確か生徒指導を受け持っている先生…」 「スパルタで知られ、一切の妥協を許さない人間だ」 真珠と箕田はそれぞれ呟く。真久部は「ただそれだけじゃなく、他に何かあるんじゃないですか?」と尋ねる。 「流石、鋭いんだね。その通りなのよ。何者かがマーキュロクロム液を持ち去ったわ」 その言葉に4人はポカンとしている。高木は「それは何ですか?」と勝端に問いかける。 「昔の時代はよく消毒液として重宝されてたのよ。ウチの病院にも置かれていた時代が懐かしいわね。今は製品の水銀不使用で生産されてないけど」 「そんな危険なものが…?」と箕田は驚いている。 「まぁ、成分そのものが無毒だから問題ないとは思うけど――」と勝端の話を遮るかのようにスマホが鳴った。 「はい、え…⁉わかりました。すぐに応対します」とだけ言い勝端は電話を切った。勝端の顔は何処か張りつめている。 「何があったんですか…?」真珠がおずおずと尋ねる。 「眞殿先生が急に倒れたわ。私の病院に搬送するからこれで失礼するわね」 と言い、勝端は勢いよく生徒会室を出て行った。 「今回のターゲットはその危険物を持ち去った奴か…」と箕田。「かなり難しいかもな」と真久部も続けた。 病院に駆け込んで来た勝端は医師からの説明を受けていた。 「彼女の状態は?」 「母体共に問題はないと思われますが…」 勝端はその言葉を聞き、大きく息を吐く。 「彼女が持っていた水筒も同時に調べてみたんです。そうしたらメルブロミンという成分が検出されたんです」 「メルブロミン…?まさか…⁉」と勝端はハッとする。傍にいた医師は「勝端先生?どうなさったんですか?」と尋ねる。 「保健室からマーキュロクロム液、いわゆる『赤チン』が何者かによって持ち出される出来事があったわ」 「それって生産されてないはずじゃ…」 「その通り。生産は禁止されている」 そう言った勝端の顔は何処か険しかった。すると円田が発した『この学校に妊娠している生徒がいる』という言葉をふと思い出す。 その頃、E4は1-Eのクラス全員の名簿を確認していた。だが、4人とも既に疲労困憊の様子だ。 「この中に本当によぉ、ターゲットなんているのかよ」と真久部は不満が爆発しそうな感じだが、「いいからさっさと調べなさい」と真珠が発破をかける。 箕田は高木に「ターゲットになりそうな人間は出てきそうか」と声をかけるが、「うーん、見つからなそう」と気怠そうに答える。 4人は既に手詰まり状態になっている。その時、生徒会室に円田が入って来た。 「やぁ、皆さん。調子はいかが?」と軽やかな様子で尋ねる。 「調子は最悪ですね。何せターゲットとなるような人物が見当たらないんですよ」と高木は嘆いている。 「高校生の性の乱れは危険と隣り合わせよね。子供が子供を産む。そんな事も起こりえる時代だから。まぁ、リツコ先生は大反対らしいけど」 「え、それって、もしかして…?」 「この学校に妊婦がいるって事よ。もしかしてだけど、今、眞殿先生が緊急搬送された事と何か関係があるのかもしれないわ」 その言葉に4人の視線が円田に集中する。「本当ですか?」と箕田は円田に近づく。 「嘘は言わないわよ。この学校の情報屋だから。まぁ誰なのかは購買部に来てからのお楽しみ。じゃあね」 そう言った円田は生徒会室から退出していく。 伝次は寒白中学校の倉庫にいた。真珠に関する資料をじっくりと眺めている。 じっくりと眺めていた伝次だったが、とある文が目に留まった。 『真珠ちゃんはあの事件を境に笑わなくなってしまった』 伝次はその資料をそっと閉じる。そして大きな溜息をつく。 「私は何も助けることが出来ないダメ親父か」 伝次はそう自嘲気味に呟き、資料室を去って行った。 翌日の昼、購買部に真珠がやってきた。 「それで、妊娠している生徒っていうのはいったい誰なんですか」 円田はいちごミルクとタブレットを同時に差し出し、「この憎たらしいクソ女よ」と言った。 「1-Eの新井佑香。まだ15歳。リツコ先生がこれを聞いたら卒倒するわ」 「15歳って…まだ結婚できない年齢ですよね」 「そうよ。法律で決まっているから。彼女は明後日で16歳を迎える」 円田はつまんなそうに言う。 「そして眞殿先生の事なんだけど、車が何者かによって破損させられる事件が昨日起きたのよ。そして普段持っている水筒の中から、保健室から持ち出されたマーキュロクロム液の成分が検出された。まぁ命に別状は無く今日も来ているけどね」 「じゃあ、それって…」 「クラスの中に付き合っている人がいるかもよ。新井佑香の行動を少し注意深く観察した方が良いわ」 真珠はその場を去って行く。 放課後、真珠は下校しようとする。すると目の前に軽トラックが停まっている事に気づいた。 「よぉ、真珠ちゃん」 「出水さん?なんでここにいるんですか?」 窓から顔を出したのは出水だった。 「今、ちょうど仕事が終わった所だ。家まで送っていくよ」 「ありがとうございます」 真珠は軽トラックに乗る。出水は軽トラックを急発進させた。 その頃、生徒会室にいた3人は未だに新井に関するデータを掴めずにいた。 「一体、新井の連れの男は誰なんだ…?」と箕田は頭を抱えている。 「生徒にも付き合ってそうな人物もいない」と真久部も退屈そうに言う。 そんな中、高木は目を瞑って黙っている。 「…」 「おい、何かわかっている事が有るのか」と箕田が尋ねるが、高木は何も答える素振りを見せない。そこに勝端が入って来た。 「背高のっぽ君が差し入れを持ってきたわよ」 勝端が持っていたのはねり飴だった。3人に差し出して勝端は「背高のっぽ君がこう言ってたわ。『固定概念を捨てたらきっと真実に辿りつく』ってね」 と言う。 その言葉を聞いた瞬間、高木は目を覚ました。 「そういう事だったのか…」 「閃いたのか?」 パソコンを素早く操作した高木はとある人物の顔を表示させる。 「付き合っているのは生徒とは限らない。本命は1-Eの副担任である阿久津誠二。いわゆる教師と生徒の禁断の愛だ」 「どうやって突き止めたんだ?」と真久部は驚いている。 「新井のメッセージアプリの履歴から突き止めた。たったそれだけの事。簡単すぎるし、脇が甘すぎるよね」と高木はかったるそうに呟く。そして阿久津の居場所も突き止めた。 「おいおい、これやべぇぞ」と真久部も呆れるように言う。GPSが指した場所はラブホテルだった。 「新井のGPSも特定できた。恐らく阿久津と共にいる」 それを聞いた勝端はスマホを取り出して電話をかける。 木春菊に到着した出水は勝端からの電話に出た。 「どうした?」 『今回のターゲットに関する情報が掴めたわ。阿久津誠二に関して調べてられる?』 「了解だ。真珠ちゃんにも知らせておく」 電話を切った出水は真珠に今の内容を全て知らせる。 「先生が関わっていた…?」 「固定概念に囚われてはいけないっていう事だよ。何も生徒同士が付き合っているとは限らないんだからな」 出水はそう言いながらねり飴を真珠に手渡した。 翌日、E4は生徒会室に集まっていた。すると円田が慌ただしく生徒会室に入って来た。 「ねぇ、聞いた?眞殿先生が入院したらしいわ」 その言葉に全員がざわつく。高木は「何がどうなってるんですか?」と尋ねる。 「彼女の座っている椅子が外れた。投げ出される形で転倒したらしい」 「誰がやったか目星は付いているんですか?」 「恐らく、考えられるのは阿久津誠二でしょ。状況からして彼以外はあり得ない」 「最早、悪戯では済まされないレベルじゃねえかよ…」 そんな中、高木はパソコンを操作している。だが出てきたのは溜息だった。 「これはダメだ。2人のスマホ等はハッキングする事が出来ない」 「電波の届かない所に雲隠れしてるってか」 真久部も何処か落胆しているような表情を見せる。そこにやって来たのは出水だった。 「出水さん?どうしてここに来たんですか?」と真珠。 「実はこの学校の生徒が1人襲われたんだ。覆面を被った男にな。その生徒の名は田代萌、1ーEの生徒だ」 出水の説明によると、トラックを走らせていた所で偶然男が田代を襲っていたのだ。出水が止めに入る所で男は逃走。田代は勝端総合病院に出水が送り届けたのだと言う。 「それで犯人からの落し物がこれだ」と言い差し出したのは鍵だった。 「だが、この鍵だけでは誰が田代を襲ったのを特定することが出来ない」と箕田は俯きながら言う。すると高木が「それ、僕がやってみてもいい?特定して見せるから」と高らかに宣言する。 「出来るのか?そんなことが」と出水は驚いている。 「はい。キーナンバーから特定することができれば、襲った犯人が分かるはずです」と言い、パソコンを操作する。生徒会室にはパソコンを操作する音だけが響く。 一方、病院では田代が目を覚ました所だった。 「ここは…?」 「目が覚めた?貴方は何者かに襲われてここにいるの」 勝端は安堵の表情を浮かべている。 「何か思い出せない?襲った人の特徴とか」 田代は頭を首を振る。勝端は「そうだよね」と笑顔を見せる。 「あの…」 「どうしたの?何か思い出した?」 「覆面を被った男がこう言ってきたんです。『ばらしたらお前を殺す』って」 その言葉を聞き、勝端の手がとまる。そしてボソッと呟いた。 「まさか…?」 その頃、生徒会室では田代を襲った人間を特定した。 「やっぱり、予感は大当たりだったね」と高木は皆にドヤ顔を見せる。そのパソコンに映っていた人物は阿久津だった。 「あの野郎…自分のクラスの生徒を襲うとは、とことん頭がいかれてやがる…!」と真久部も怒りを見せる。すると出水の方にも動きがあったようだ。 「裏付けが取れたよ。勝端から連絡がきた。阿久津が『ばらしたら殺す』って言って田代に襲い掛かったらしい」 「つまり阿久津が田代を襲ったのは口封じの為」と円田も付け加える。 「もう時間は無い。阿久津の方は俺に任せておけ」と出水はそう言って生徒会室を出て行く。 放課後、新井と阿久津は一緒に歩いた後、別々の方に分かれた。阿久津は路地裏の方に行ったその瞬間、何者かがその腕を掴んだ。 「良くないよなぁ…先生が生徒なんかに手を出すなんて…」 「誰だ…いきなり…」 出水はさらに腕を掴む力を強める。そこに円田もやって来た。 「眞殿先生の水筒に赤チンを混入させたのも、座っている椅子のネジを緩めて転倒させたのもどうせアンタなんでしょ。さっさと白状しなさいよ」 「し、知らねぇよ…」 「良いのか?正直に言うまでずっとこのままだぞ?さぁ、さっさと吐いちまえよ。楽になりたいだろ?」 円田も「そーだそーだ」と子供っぽく煽る。それでも阿久津は黙ったまま答えない。出水は「言えよ!この野郎!」と高圧的に叫び、さらに腕を掴む力を強くする。 「わかった…言う…俺がやったんだ…新井が眞殿先生を気に入らないからって言ったから排除してくれって」 出水は阿久津を投げ飛ばす。円田は「気持ち悪すぎるんですけど」と言って阿久津の傍を離れる。 「とっとと言ってしまえば良かったのになぁ…?このロリコン教師が」 出水は阿久津の顔面にパンチを喰らわせた。阿久津はそのまま動かなくなった。出水は動かなくなった阿久津に唾を吐く。 「ねぇ、こいつどうすんの?」と円田は尋ねる。 「もう放っておけ。こんな奴にもう用なんて無い。あ、そうだ、これも渡しておけよ」と言い、歩みを進める。円田はその渡された物をじっと見つめていた。 翌日の放課後、1-Eの教室では新井の16歳の誕生日を祝うパーティーが行われていた。 「私、新井佑香は阿久津先生と結婚しまーす!」 その言葉に歓声があがる。しかしその明るい雰囲気は一瞬にして吹き飛ばされた。 「それは無理ですね」 そう言いながら真珠が教室にやって来た。手には退学届がある。 「貴方は結婚する事は出来ない。ましてやこの学校にもいられない。先生と結婚するなんて気持ち悪くて反吐が出るわ」 「な、何をいってるの!証拠も無い癖に!」 新井はかなり苛立っている。真珠は冷酷にICレコーダーを見せた。 「そうか、わかった。証拠を見せてあげるわ」 真珠はそのスイッチを押す。その瞬間、新井の表情はたちまち青ざめていった。 「ど、どうして――」 「自分の為に邪魔者を排除して、そればかりか口を封じる為に阿久津先生を使ってクラスメイトを襲った。私、アンタのような人間は私は一番嫌いなの」 「それがどうしたって言うのよ!あのババアの子供は産まれていなんだから、あんなのいなかったようなものでしょ!」 新井は相変わらず傍若無人な態度を取っている。そして次の瞬間、真珠は新井の首を思いっきり掴んだ。 「な、何すんのよ…⁉」 「人の命を奪ったその罪を自らの身で思い知りなさい!」 真珠はさらに力を強めていく。すると教室に箕田と真久部と高木がぞろぞろとやって来た。 「鏡さん、やめて!」 「バカ魔女!何やってんだ!」 高木と真久部は止めに入ろうとするが、真珠の周りからはただならぬ殺気を放っており、2人は固まってしまっている。尚も真珠は力を加えていく。 「よせ、真珠!お前はそれでもE4のリーダーか!」 しばらくして真珠は3人がかりで引き離された。その目には涙を浮かべている。4人はしばらくの間立ち尽くしていた。 その後、真珠は校長室に呼ばれた。 「一体何でそんな事をしたんですか」 「…申し訳ありません」 鮮見からの𠮟責に真珠は小さく頭を下げる。鮮見からしてみればいつも冷静な真珠が他人の首を絞めた事が信じ難かったのだろう。 「いくら何でもやり過ぎですよ。少し休んだ方が良いでしょう」 「…すみません」 真珠はそれだけ言って再び頭を下げる。すると何か大きい音が響いた。よく見ると鮮見が倒れていたのだ。 「鮮見さん!どうしたんですか!しっかりして下さい!」 鮮見は意識を失った。校長室には真珠の声だけが虚しく響いている。 鮮見は勝端総合病院に搬送された。勝端が付き添いとなって見守っている。 「校長先生は…」 「何ともないと思うけど、少し厳しいかもしれないわ」 「そんな…」 真珠はその姿をただ見つめる事しかできなかった。 一方、生徒会室に残された3人は真珠の身に何が起こったのかを理解できずにいた。 「何があの魔女を覚醒させたんだ…?」と箕田は悩んでいる。真久部も「一体奴の身に何が起こったんだ…?來の字。何か知ってんのか」 「いちいちしつけぇよ!そんな事知るかよ!アイツの事なんて好きでも何でもねぇ!」と箕田はかなり苛立ちを見せ、真久部の胸倉を掴む。それを見るや否や高木は「2人ともやめなよ!」と声を荒げ、間に割って入った。2人は諍いを止めて、自分の席に座り直した。箕田は思いっきり舌打ちをする。 するとパソコンにメールが匿名で届いた。高木はクリックしてそのメールを見る。高木はその中身に顔が青ざめていった。 「何これ…?」 箕田と真久部も高木のパソコンを食い入るように見る。その内容に愕然とする。 「どういう事だよ…」 「本気であの魔女を消し去るつもりか?」 そこに生徒会室の扉がノックされて円田がやって来た。 「たった今、鮮見のオバサンが緊急搬送されたわ」 その言葉に3人は動揺が走る。「大丈夫なんですか…?」と高木が尋ねた。 「さぁね。でも自力で歩行できない当たり結構重病よ。だからあれほど入院するように言ったのに、もう庇いきれないわ」 円田の口調は何やら冷淡でどこか冷めているリアクションだ。 「あ、そうだ。来客がいらっしゃるからどうぞごゆっくり」と手を振り、円田は生徒会室から去って行った。入れ替わりで入って来たのは伝次だった。 「貴方は…」 「鏡伝次、真珠の父親だ」
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