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CASE4
3年前――
出水は1人の女を取り調べていた。よく見るとそれは円田だった。
「我々のサーバーに不正アクセスするとは全くの命知らずだな。お嬢ちゃん」
「だから何?私は私なりの正義を実現しただけよ」
「笑わせるな!お前なんかが正義を語るな!」
「アンタ達警察なんか役に立たないからでしょ」
出水は机を叩き、円田を睨みつける。円田は動じることなく出水の目をじっと見ていた。
現在――
木春菊にて出水と円田が共にいた。
「3年前の事件、それはまだ終わってなかったみたい」と言い新聞記事を見せる。
「どういう意味だ…?また奴が現れたというのか…?」と言い、シガレットを口に咥える。
「その奴が凛堂竜一。人呼んで『悲しみを運ぶ者』。彼が関わった犯行は全て紫の竜胆が置かれていた」
「竜胆の花言葉は『悲しんでいるあなたを愛する』。普通に解釈すれば、逆境の人を慰める意味。しかし世間では「悲しむ人を見て笑うサイコパス」みたいな印象が広まっている。奴は愉快犯。その奴に危害を加えられた1人が真珠ちゃんだ」
「結構良いところまではいったんでしょ?」
言われた後、出水は舌打ちをする。
「あれ、聞かれたく無かったですか?」
「いや、お前に言われたくはないが、それは正解だ。奴が犯行現場の近くにある防犯カメラにハッキリと映っていた。証拠は全て揃っていたんだ」
「でも、どうして…」
「上からの圧力だよ」とつっけんどんに言い、瓶コーラを開けて1本飲み干し、大きく息を吐く。
「凛堂の叔父は元公安部部長である平井太郎だ。警察と公安の間でのトラブルは流石にマズい事になる。不用意に首を突っ込んではならない、そういう事だ」
「それで逮捕するチャンスを逃したって事ですか?」と言い、円田はおやつカルパスを口に入れる。
「ああ。だが、問題はその後だった。腐った上層部がおかしなことを言いやがった…」
「え…?」
「被害者が起訴を望まない。合意があったという事で処理しろってな」
円田も二の句が告げなかった。
「認めたくないが、これが現実だ。俺もその後警察を辞めた。こんな腐った世界に時間を取られるのはごめんだからな」
「真珠ちゃんの事を救えなかった事も含めてですか」
「まぁな。だが、くれぐれもこの事は真珠ちゃんに言うなよ。絶対にな」
円田は店から退店していった。すると入れ違いで入って来たのは勝端だった。
「圭ちゃん。あの女に何か喋ったでしょ」
「知るか。別にどうって事はねぇだろ」
「あの女、生徒を何とも思ってないわ」
「そう思ってるのはお前だけだ。奴も何か隠している事がある」
鮮見は校長室にてパソコンを操作していた。するとメールが受信される。鮮見はそのメールをクリックする。そのメールには『8年前の事件、全て終わらせる』とだけ書いてある。
鮮見は背筋が凍る思いがした。ポケットから薬を取り出して1錠服用する。
翌日、E4は全員生徒会室に集まっていた。
「そういえば今日、円田さんが購買部にいなかったね」と高木がパソコンを操作しながら呟く。真久部も「ああ、確かに円田さんがいなかったのは不思議だな」と言い、焼きそばパンを食べる。
「そりゃあ、誰だって休みたい時だってあるだろ」と箕田が言うが、真珠は腕を組みながら何か考えているようだ。
「おい、真珠、どうした?」
「いや、でも、何か良くない出来事が起こりそうな予感がするわ」
真珠がそう言った瞬間、壁にかけてあった絵が崩れ落ちた。4人は振り返って絵が飾ってあった方向を見る。
「まさかねぇ…」
「ストームの前の静けさって奴?」
箕田と真久部がそれぞれ呟いた瞬間、ドアが開いて何者かがやって来た。それはなんと鮮見だった。手にはノートパソコンを手にしている。
「校長先生?一体どうされたんですか?」と箕田は尋ねる。それに構わず鮮見はこう言い放った。
「貴方達にやって欲しい事が有ります」
一方、伝次と出水は木春菊にいた。伝次が見せたのは新聞記事だった。出水の様子が険しくなっていく。
「お前も知っているだろう。凛堂竜一の名は」
「はい。また奴が現れたという事ですか」
「もしかしたら模倣犯かもしれん。だが真珠に万が一の事が有っては不安だ」
伝次はそう言った後、大きく息を吐き「何でこうなってしまったんだろうなぁ…」と小さく呟く。
「どうしたんですか?」
「真珠は昔は可愛かったもんだ。だが3年前の事件以降、すっかり人が変わったように心を閉ざしてしまった」
言いながら見せたのは伝次と真珠が共に写っている写真だ。よく見ると父子共に満面の笑みを浮かべている。
「1人でその事をずっと抱え込んでしまったって訳ですか」
「まぁな。何せあのように真実を都合よく捻じ曲げられたって事さ。俺が救ってやれなかった事も含めてね。もしかしたら自分で凛堂に復讐をしようと考えているかも知れない」
伝次はそう言いながらシャツの内ポケットから煙草を取り出し、吸おうとする。それを見た出水は「ここは禁煙ですよ。ていうか伝次さんって煙草吸わないんじゃないでしたっけ?」とツッコむ。
「おお、すまんすまん。つい昔からの習慣でな」
「そういう事なら、こちらの方が良いんじゃないですか?」と言い、手にしているココアシガレットを1本伝次に差し出す。伝次は「すまんな」と言い1本受け取る。そして他愛のない話を続けていた。
一方、E4は鮮見から今回のケースについて説明を受けていた。
「円田さんが?」
「ええ、昨日匿名でこのようなメールが届きました」と言いノートパソコンを見せる。
「8年前の事件が僕たちに関係あるんですか?」と高木が尋ねる。
「円田渚、彼女はこの学校の卒業生です。在籍名簿を閲覧しました。彼女はかつて、生徒会の副会長を務めていました」
「今の私達みたいに…」と真珠が思案に暮れる。
「今ここで話す事があります。彼女は過去に不正アクセスを行い警察に検挙された過去があります」
「それは、嘘ですよね…?」と真久部が尋ねるも、「いいえ、本当の事です」と強く言い放つ。
「不起訴処分にはなりましたが、個人情報を扱う裏家業は未だにやっているともっぱらの噂です」
「じゃあ、生徒の個人情報に関して詳しいのも…」と箕田も納得いくような表情を見せる。
「とにかく今回のケースは円田渚が関わっている事は間違いありません。貴方達にはこの学校裏サイトの管理人を突き止めてください」
鮮見はそう言い残し生徒会室から去って行った。去った後の生徒会室は沈黙が支配している。不意に真珠が口を開いた。
「どういう事なの…?」
「どういう事も何もそういう事だろう。詳しい事は本人に直接問いただして来い」
箕田は突き放すように言い放った。
勝端は保健室にて作業をしていた。そこに鮮見がやって来た。
「どうされたんですか?」
「聞きましたか。8年前のこの学校に絡む騒動が起きていると」
「それは円田渚の件ですか」
鮮見は黙って首を縦に振り、学校裏サイトを見せる。そのサイトを見た勝端は驚愕する。
「これは一体…?」
「8年前の事件を最後に学校裏サイトは開かれていなかった。ですが今、このサイトが何者かによって動き出したのです」
「裏で動いているのは――」
「それを今からE4達に突き止めてもらいます」
翌日の朝、円田は今まで通り購買部にいた。そこにやって来たのは真珠だった。
「真珠ちゃん?まだ購買の時間じゃないわよ?」
「なんで今まで黙っていたんですか。どうしてこんな事を続けているんですか⁉」
「あーあ、言っちゃったのか。あのオバサン」と円田はひどく冷めた様子を見せる。
「まぁ、良いわ。真珠ちゃんだけに話してあげる」
円田は購買部の隅の部屋に移動し、応接ソファで2人は向き合う。真珠にいちごミルクを差し出した。
「確かに8年前にこの学校に在籍していたわ。副生徒会長だったあの頃が懐かしいわね」
「ふざけていないで、先を進めてもらえませんか」
真珠は苛立ったか語気を強める。それを見た円田は「はいはい、怒らないの」と宥める。
「簡単に概要を話すと、8年前にこの学校のとある生徒が自殺した。その生徒の名は木野伸一。授業中にこっそりと抜け出して飛び降り自殺をしたわ」
「…」
「自殺の争点になったのは、学校裏サイト。住所や電話番号などの個人情報が流失し、中傷行為をされていたのよ」
「…」
「自慢じゃないけど、私は既にハッカーとしてこの学校の風紀を取り締まっていたのよ。でもその裏サイトだけにはどうしても入ることが出来なかった」
「どうしても入れなかったんですか…?」
「そうよ。学校名で検索してもヒットしないようになっているのは当然だとしても、パソコンからアクセスする事は出来ないからね」
「それで、いじめの首謀者は…?」
「見つかられなかったわ。まぁ自分からやっていますなんて言うバカはいないだろうし、結果的に闇に葬られたまま今に至っているわ。そして今、裏家業を並行しておこなっているの」
「なんでそんな事に足を突っ込んだんですか…?」
「まぁ、面白半分かな」
その言葉に真珠は思い切り机を叩いた。
「誤魔化さないで下さい!そんなんじゃないですよね?もっと自分を大事にしたらどうですか⁉」と声を張り上げた。真珠の目は既に涙を浮かべている。
「鋭いわね。流石、鮮見のババアが見込んだ生徒。真実を明らかに出来なかった彼への贖罪も含めてね。この情報社会ではたった1つのミスが命取りだから」
「…」
既に泣き顔になっている真珠を円田は悲しそうな目で見つめていた。
その頃、鮮見は1人の男を呼び出していた。
「元気にしていましたか…」
「ええ、この3年の間色々な事が起こっていましたよ」
よく見ると出水だった。
「そういう鮮見さんこそ、ここで校長先生を務めているとは、何がどうなっているんですか?」と出水が訝し気に尋ねる。
「あの事件があって以降、私がすべき事は風紀を守る事が一番となりました。
私は独り身で子供も死産。でも子供たちと向き合うのなら校長になるのが最善と思いました」
「でも、教員免許を持っていない鮮見さんがどうやって…?」
「学校教育法施行規則が改正され、一般人でも校長になる事が可能です。私は私にとって理想の学校を作るため、この学校に赴任しました」
そう言った鮮見の声ははきはきとしていた。出水は何か引っかかっている。
――何か重大な事を、真珠ちゃんに隠している。
放課後、E4は裏サイトに関して調べていたが、中々難航しているようだ。
「今回は中々難しいよ。この僕でもここまでが精一杯」と高木がボヤく。
「だらしねぇな。もっと本気だせるだろう」と箕田が発破をかける。
「そんな事言われても…」
「さっさとやれ」と真久部が圧をかける。
3人が小競り合いをやっている中、真珠は1人隅っこで何か考えているようだ。
――たった1つのミスが命取りだから。
真珠は円田が言った言葉がどうしても頭から離れなかったようだ。そしてしばらくして立ち上がった。
「ちょっと、何処に行くの」と高木が尋ねるが、真珠は「私、先に帰るわ」と言い、生徒会室を出て行く。
扉が閉まった音がした後、生徒会室は妙に静まり返った。暫くの沈黙の後、「サボタージュか」と真久部が呟く。
「知らん。とりあえず先を進めるぞ」と箕田。その言葉に3人は再び作業を進めていた。
その真珠は校長室にいた。今回のケースに関して検証を行っている。
「まだ管理人の行方は掴めていません」
「そうですか…」
鮮見はそう言った後、視線を落とす。不意に真珠は口を開いた。
「怖いんです…」
「どうしたんですか?」
「円田さんが言っていたんです。間違いでもし人を裁いてしまえばそれこそ取り返しのつかない事になるって」
「…」
鮮見は腕を組んで黙っている。真珠は尚も続ける。
「もしかしたら私のやっている事は正しいのかって…」
「心配する事は無いわ。貴方達は優秀な人間よ」
鮮見の言葉に真珠の顔が晴れやかになる。そして「貴方の優秀さは父親である鏡伝次とまるでそっくりね」と言う。
「お父さんの事を知っているんですか?」
「ええ、とっくに昔の事ですが共に仕事をさせてもらいました。何度か意見がぶつかる事が有りましたが、それでも彼は優秀な人間でした」
「ありがとうございます。では、私はこれで失礼します」
真珠は会釈をし、校長室から去って行く。
その夜、真珠と伝次は久々に自宅で食事を囲んでいた。
「ねぇ、少し聞いても良い?」
「どうした?」
「鮮見さんって一体何者なの?お父さんの事を知っているような素振りだったけど」
伝次は意を決したように話し始めた。
「鮮見さんは元警察官だ」
「え、そうなの?」
真珠は興味深そうに体を前に乗り出す。伝次は尚も続ける。
「そういう風には見えないだろうけどな。刑事と検察官。昔はよく会議などでバチバチにやりあったもんだ。今思うとあの時が懐かしいな」
「鮮見さんはじゃあ何で校長先生なんかになったんだろう…」
「なんかって事はないだろう。鮮見さんにも色々な事情がある」
そう言いながら伝次はコップに入っているお茶を飲み干す。伝次は話題を変える。
「そういえば、鮮見さんは元気してたか」
「うん。後、私の事をすごく気にかけてくれる」
「お前にも信用できる大人がいて良かったな」
2人はその後、親子で和気藹々と食事を楽しんでいた。
円田は自宅にてパソコンを操作していた。閲覧しているのは真珠に関するデータだ。
「なるほどねぇ…」
何かに気づいたのか、パソコンを操作する手を早めた。
翌日、真珠以外の3人は生徒会室に集まっていた。高木は少し寝ぼけまなこな様子だ。
「もう勘弁してよね。こう見えても2人と僕は対等な位置」と言い、2人に書類を見せる。
「こいつが書き込んだって訳か」と言い1人の生徒の写真を真久部に見せる。「如何にもパソコンが得意そうだな。お前のようにな」と真久部も頷く。
「僕みたいなんてのは余計だよ。でもおかしな事が1つあるんだ」と高木。
「どういう意味だ?」と真久部が尋ねる。
「この木野忍という生徒のパソコンを詳しく調べていたら、コンピューターウイルスみたいなのが検出されたんだ」と箕田から写真を受け取り呟く。
「という事は誰かがこいつに成りすましている」と箕田。
「うん。何者かがRATウイルスっていうマルウェアをこの木野っていう生徒に仕組んだんだろうね」と高木。真久部は「俺にもっとわかりやすく説明しろ」と高木の頭を叩く。
「全く、これだから脳筋は。まぁ要するに他人のパソコンに遠隔操作するウイルスの事」と高木は簡潔に説明する。
「誰が何の為にこいつをハメたのか…」と箕田が呟いたその瞬間、スマホが鳴った。見ると真珠からだった。
「いきなりどうした」
『緊急事態よ!ナイフを持った生徒が円田さんを狙っている。すぐにこっちに来て!』
そこで電話は切れた。箕田は生徒会室を飛び出していく。
「おい、何が起こったんだよ!」
「かなりヤバい事が起こってんだ。お前らも来い。このままじゃ真珠が危ない!」
真久部も高木も立ち上がり生徒会室を飛び出していった。
円田と真珠の前にはナイフを手にした木野が立っていた。
「なんでこんな事を…?」
「うるせぇ!このクソアマが!8年前に真実を葬り去られたこの恨み、俺たち家族は一生忘れてない!」
「だからってやっていい事と悪い事が有るでしょう!」
「他人の人生を踏みにじった事を後悔しやがれ!」
木野はナイフを振り回し円田に襲い掛かる。その時、真珠が背を向けて間に入り、切り付けられた。他の3人がごぞってやって来たのはほぼ同じタイミングだった。
「真珠!」
その言葉に木野の目線は3人へ変わった。
「てめぇ…!やりやがったな!」
箕田はファイティングポーズを取り、木野の目線を捉える。
「かかってこいよ」
その言葉にスイッチが入ったか、木野はナイフを振り回し箕田に襲い掛かってくる。箕田は間合いを詰めようとするもナイフが邪魔となり、なかなか上手くいかない。
フェイントのパンチに気を取られた瞬間に箕田は木野の顔面にパンチを見舞わせた。強烈な一撃に木野は手からナイフを離す。拾おうとするも、箕田は足でナイフを蹴っ飛ばした。
木野はナイフがある方向に向かうが、そこに立っていたのは真久部だった。
「終わりだ」と言い、木野の首を掴んだ。
絞められた木野はあえなくその場に崩れ落ちた。尚も立ち上がろうとする木野の手を高木は踏んづける。木野は甲高い声を出し、悶絶する。そして催涙スプレーを目に向かって吹きかけた。
その時、鮮見がやって来た。真珠の方に駆け寄る。
「鏡さん!大丈夫⁉しっかりして!」
「お母さん…?」
その言葉を最後に真珠の意識は途絶えた。
その後、木野忍は殺人未遂の容疑で逮捕された。真珠は病院に運ばれ、治療を受けているが、命に別状は無いとのことである。
生徒会室に戻った3人は今起きた事を咀嚼できずにいた。
「真珠の奴、意識を失う前に鮮見さんに向かってお母さんって呟いていたな…あれは一体どういう事だ?」と真久部が尋ねる。だが、箕田は答えない。
高木も「僕だってわからないよ」とお手上げだ。そんな中、箕田は何か考えているようだ。
「おい、來の字。何か知っている事があるだろ?」と箕田に話を振る。
「俺も知らない。だが、鮮見さんが真珠に真っ先に駆け寄ったのは何かある」
その時突如、生徒会室のドアを乱暴に開け放つ音がした。扉の先に立っていたのは乙霧だった。生徒会室が重たい空気が包まれていく。
その頃、勝端総合病院では真珠が入院している病室に鮮見がいた。真珠は未だに意識を取り戻さないままだ。鮮見は悲しそうな顔をしている。その時、伝次が病室に入って来た。
「鮮見さん…?」
「お久しぶりですね、鏡さん。こうなってしまい誠に申し訳ありません」
鮮見は深々と頭を下げる。
「いえ…それと真珠の容態はどうなんですか」
「今の所、問題はありません。それと貴方に話さなければいけないことがあります」
鮮見は伝次と共に病室を去って行く。その姿を勝端は遠巻きに見ている。
鮮見と伝次は病院の外に出る。空は一面灰色で日差しは射していない、2人の心を表すような天気だ。
「それで話とは何でしょう?」
「鏡真珠の事に関してです。貴方にはまだ知らせていないことがあります」
鮮見が見せたのは赤ちゃんの写真だった。
「まさか…?」
「そのまさかです。鏡真珠は貴方の子供ではない」
「やはり…私も同じことを思っていた。O型とO型の両親から生まれる子供は必ずO型だ。それ以外の血液型になる事は無い。真珠はAB型だ」
「…」
「だとすると、貴方が…?」
出水は木春菊にて1人で作業していた。そこに電話が鳴り響いた。
「はい」
『出水君…?』
「勝端か?どうした急に電話をかけてきて」
『真珠ちゃんが何者かに刺された…』
その言葉に出水の思考回路が止まる。つとめて冷静に「容態は?」と尋ねる。
『意識は取り戻してないけど、命に別条はないわ。それと鮮見さんと伝次さんが大事な話があるって言って病室を出て行ったのよ』
「どういう事だ…?」
『分からない。でも何か秘密を知っているかもしれない。まさかそれを伝えに行ったんじゃ…?』
「そうか、わかった」
電話はそこで切れた。すると商品の棚がいきなり崩れ落ちた。出水はその方向を振り返る。
その夜、円田はただ1人とある倉庫で作業していた。そこに乙霧がやって来た。
「解散を言い渡してきたのね」
「ああ、これでもう鮮見も手出しは出来まい。何せ学校裏サイトを運営しているのはこの私だからな」
「E4達も形無しね。そろそろお終いだこと」
円田はニヤリと笑みを浮かべていた。
箕田は自宅にてシャドーボクシングをしていた。乙霧から突き付けられた言葉が頭から離れない。
――学校裏サイトの首謀者を3日で特定できなければ皆は退学だ。
その時、スマホが鳴った。真珠からである。
『もしもし…?』
「具合はどうだ」
『ひとまず何ともないわ。それとそっちの方は?』
「乙霧が俺たちを退学に追い込もうとしている。恐らく乙霧は鮮見さんを追い落とすつもりだ」
『それって…』
「乙霧は鮮見さんをよく思っていない。3日で学校裏サイトの管理人を見つけろと無理難題を吹っかけてきやがった」
『…大丈夫なの?』
「とにかく何とかするしかない。じゃあな」
電話を切った箕田は心の中で意気込んだ。
――これ以上奴らに失点を背負わされてたまるか。
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