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アルケミスト(調合師)
「小娘、其方の名は?」
「……ユーフィリア」
「ユーフィリア、洒落た名前を付けた物だな」
「いきなり現れてなんですか? 喧嘩なら買いますけど、私そこそこ強いですよ?」
人の名前を小馬鹿にするような態度で嘲笑う黒髪美人に、その美貌への妬みも込めて、喧嘩口調になってしまった。
これが身の程知らずとは知りもせずに。
「小娘がなかなかどうして度胸があるな! それとも世間知らずの箱入り娘か」
「さっきから馬鹿にした態度で! 今日は白色スフィアも補充してるから悪いけど懲らしめてやるから!」
私は無色で大地に埋まった石を持ち上げて、白色スフィアで極端に摩擦を減らす。
それを黄色スフィアと調合して、生意気な魔女に叩きつけた。
魔女ごと地面を抉るように叩きつけられた石は砂埃を巻いて、周囲を包み込んだ。
「あっ、やり過ぎた」
幾ら頭に血が登ったとはいえ、これは怪我では済まない。
お父さんお母さんにバレる前に逃げようかなと焦ったが、砂埃が風に払われるとともに私はその景色に驚いた。
魔女は無傷、足元にはスフィアを凝縮させた小さな球と、それを結ぶように描かれた紋様が複雑に絡み合っていた。
「素人レベルならかなりの手練だが、妾を相手にするのでは赤子レベルだな」
砂埃を手で払い除けて、魔女は人差し指を親指に引っ掛けて力を込めた。
「スフィアはこう使うんだよ」
親指で貯めた力で人差し指が空気を裂くと同時に私のおでこに大きな衝撃と、鈍い音が響いた。
「これが妾の『でこぴん砲』だ、ワハハハハ!」
豪胆に笑う魔女を前に、私はおでこの痛みを腕で押さえ込もうと膝を地面に落として踞る。
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