聖戦と呼ばれた1日

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スピリッツに囚われていた精霊達が次第に集まり始める。 「せ、精霊が集まろうとほとんど魔力に変換されているのです! 烏合の衆、とはこのことですネ」 「けれど精霊はスフィアを操るんだよ?」  各々の精霊がそれぞれのスフィアを集めながら、様々な光を放つ。  虹色に輝きながら、私の周囲を浮遊しながら私にスフィアが纏われていく。  次第に私の身体を覆うように白色の光がぼんやりと発光し始めた。  それを見た王国兵が一言呟いた。 「女神(・・)……」  遠くから見ると発光する白色の輝き、金髪の少女。  到底このような戦場にはそぐわないその姿で、精霊を複数従えるように光と戯れて見えた。  女神、というそれは1人から2人、2人から複数人への意識へ変わり、次第にその希望は歓声へと変わる。 「なんかすごい騒がしいけど」 「違う、違う違う! 貴女のそれは自分の力ではないではないですか!」 「精霊(ひと)の力を借りて何が悪いの?」 「私はティエリアに、私自身の力で……!」 「それも精霊の力でしょ? 無理やりに剥がした」  スピリッツは何か言いたそうにしているが、言葉を飲んで口を噤んだ。 「私が勝てば私が正義! こんな若輩者の小娘になんて――」  思いつく魔法を最高速で、後先お構い無しに放ってくる。  それを精霊達がスフィアで無効化していく。 『さぁ、前に進んで終わらせよう』  私の中の精霊が私の背中を押してくる。 「そうだね、終わらせよう」  師匠と出会ってから、色んな経験をしたが、今日という1日は一段と長く感じた。  考えれば、最初こそ不満はあったが、常に感情が揺さぶられ、世界のことを知り、世界を守りたいと思うようになった。  竜族とも精霊とも出会い、力を貸してくれて、今、私を暖かく包み込んでくれている。  それもこれも戦争のせいで、スピリッツのせいで、けれど恨む気にはならない。  スピリッツの表情から時折読み取れる師匠への憧れと焦燥。  スピリッツも1人の人間で、何か成そうとして道を間違えただけ。 「私の魔法が通じないなんて!」  魔法が全て打ち消されていき、スピリッツはその拳を握りしめ、私の腹部へ最大の一撃を。  その衝撃は凄まじい疾風となり、都市を突き抜けて、王国兵も魔法使い達も身体を支えるのに精一杯。 「貴女はやり直せるはずだと思うよ」  私は拳を手のひらで止めると握りしめて、私のお腹に当てる。 「これが貴女が力を奪った精霊の温もりだよ?」 「こんなもの――」  アポトロスの魔力も尽きて、元の姿に戻ったスピリッツは意識を失うと私の胸にもたれかかり、私は抱きしめた。  人の温もりを忘れていた彼女が立ち直れるか分からないけど、ここから先は王国に任せよう。 「期待以上だ、ユーフィー」  師匠に頭を叩かれて、満面の笑みが無意識に漏れると、力が抜けるように私も意識を失った。
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