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チュンチュンチュン――。
鳥のさえずりがやけに心地好く、ふかふかと背中を押し返す布団の感触は一生浸っていられそうな程。
日差しの温もりが優しいが、その明るさに瞼は重い。
まるで我が家のよう――。
「えっ!」
意識が繋がると同時に勢いよく起き上がる。
と同時に全身に激痛が奔る。
「あっ、いった!」
「慌てすぎだ、ど阿呆」
勿論、声の主は師匠である。
残念なことにふかふかな布団はカムエルの中の宿のようだ。
「痛たたっ、全身筋肉痛みたいだよ」
「そのうち慣れるだろうが、無理すればこうなるさ」
よく見ると師匠も包帯だらけだ。
魔法とかでさっさと治せそうだけど、そこまで万能でもないのかな。
「それにしても静かなものだね」
「ふん、これを聞いても同じことを言えるか?」
師匠が窓を開けるとともに突然歓声が湧き上がり、私の耳から入ったその音は脳を揺らしていると錯覚しそうになる。
「ユーフィリア様ー!」
「顔を出してくれー救世主!」
飛んでくる歓声は私への賞賛であることは聞き取れるが、状況が掴めずに身体の痛みを堪えながら顔を出す。
そこには圧巻の光景が広がっていた。
街の人達が私が起きるのを待っており、その歓声を聞きつけて更に人が集まる。
宿の前は人が通れない程に人が集まり、みながこちらを笑顔や泣き顔でそれぞれの感情を零していた。
「ななな、なにこれ……?」
「ククク、其方が何と呼ばれているか知っているか?」
「知らないよ!」
師匠が笑顔で何も言わず、腕を組んで壁にもたれ掛かる。
私がまた窓の外を見つめると、目が合ったと勘違いしたのか、息を合わせたように王国兵が兜を上に投げて叫んだ。
「女神様、万歳!」
「め、女神?」
「そうだぞ、なんでも『聖戦の女神』だそうだ。 大それていて笑えるだろ?」
「笑えないでしょ……」
そうして騒ぎが大きくなり、あたふたする私を楽しむ師匠だったが、そんな人混みを掻き分けて王様が直々に現れた。
街の人達は逆に静まり返り、憶測が飛び交った。
師匠は面倒臭いと言わんばかりに訝しげにして、ぼそっと提案を告げる。
「逃げるか」
師匠は魔法を唱えると魔法陣に私達が包まれる。
「女神様、魔女様、また来てくださいねー!」
魔法を嗜んでいる兵士が空気を察して、最後の挨拶を交わしてくれた。
街の人達もそれを聞いて大きく手を振ってくれる。
王様は慌てて兵士を宿に雪崩込ませたが、間に合わなさそう。
私はあっという間なこの時間に別れを告げるように、大きく手を振り返した。
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