聖戦と呼ばれた1日

9/10
前へ
/66ページ
次へ
旅の始まり、師匠と歩いた道をゆっくりと引き返す。  師匠は空を揺らめきながら移動し、私はそれを眺めながら歩く。  あの時と同じ道を引き返すだけだが、発見と新鮮だった数日前とは打って変わって、悟ったような面持ちが私の心に張り付いている。  世界を見て、人を知り、戦争を見た。  日が暮れて、空が橙色に染まる頃、私は1つ溜息をついた。  この先に我が家がある。  だけど、今までの人生と何かが変わる、そんな予感がするのだ。 『ご主人様の家はどんなところ?』  精霊が私の肩に乗っている。 「んー、暖かくて優しくてうるさいところかな」  お父さんとお母さんの顔が浮かぶ。 『スフィアを使えるんでしょ? 早く会ってみたいなぁ』 「そんな期待されることじゃないよ」  きっと帰ったら泣いたり笑ったり怒ったりするだろうな。  お父さんは絶対泣いてるし、お母さんは暖かく笑ってると思う。  師匠とはこれでお別れなのかな。  思いを馳せることが多すぎるのに、心は何処か落ち着いていた。 「そう言えば、名前なんて言うの?」 『僕に名前はないよ』 「えっ、そうなの?」 『名前があるのは四大精霊と精霊王、精霊神くらいだね』  それぞれが神話に出てくるような存在で、実在するとは信じていなかったが、四大精霊は人の世に顔を出すこともあるらしい。 「そうなんだ、偉くならないと名前は付かないのかぁ」 『精霊が名前を名乗っていいのは別世界との争いで、その功績を認められないといけないんだよ』 「精霊の世界もシビアだね」 『そんなことはないよ。 普段は自由だからしがらみはないんだ』  くだらない話を続けながら、帰路をまったりと歩いていく。
/66ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加