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「あっ、でも1回家に帰らなきゃだし、晩御飯の支度もしなきゃ」
「ならば妾が説明しよう、そしてその晩御飯は妾も頂こう、案内せよ」
そう言うとスフィアとは少し違う光の球を作り出して、その球におしりをつけた。
光の球は魔女を乗せて浮かび上がり、視認出来る程度の上空へと飛び去った。
「マイペースなお姉さんだなぁ」
この時の私はその程度の認識だった。
声も届かなそうだったので、文句も言わず帰路につくこととした。
「ただいま」
「あら、おかえりなさい」
「ミルク取れたよ!」
「いつもありがとね、それじゃあシチューにしようかしらね」
「あとねお母さん」
「なに?」
お母さんの背中を眺めながら、私は椅子に腰を掛けた。
今日出会った魔女のこと、魔法のこと、晩御飯を食べに来ると言っていたこと、話したいことはたくさんあったが、それらは一瞬でその必要を失うこととなった。
「失礼するぞ、『原祖の魔女』ティエリアだ」
「……原祖の魔女?」
お母さんはこちらに視線を送り、魔女に穴を開けようと言わんばかりに凝視する。
その瞳からお母さんがその存在を知っていて、懐疑的な感情を抱いていることは見て取れた。
「晩御飯とやらを頂きに来た、ゆるりとしておくので、丹念に仕立てあげよ」
「突然の来訪ですね、ユーフィーになにをしたのかしら?」
「おや? 包丁に込められているそれはスフィアだな、小娘も大したものだったが、母譲りというわけか」
お母さんからは普段感じられない警戒心も滲み出始めて、それを一蹴するかのように微笑を携える魔女。
不穏な空気が漂ってどうにも息が詰まるというか、居心地が悪い。
この魔女をお母さんは知っていて、よい印象を持っていないのだろう。
「と、とりあえず手伝うから晩御飯にしようよ!」
手を叩いてこの空気を打開せんと台所に乗り込むも、私を無視するように2人は視線を逸らさなかった。
「……怖いんだけどなぁ」
ぽつりと呟いた私の一言に、お母さんがぴくりと反応し、視線は逸らさないまま、溜息をついた。
「ひとまず晩御飯はお出ししましょう、そこからお話を聞かせて頂きます」
お母さんは妥協するように提案し、魔女も「懸命だな」とあっさりとこれを快諾した。
家が傾くんじゃないかと思うくらいの緊張感だった。
「ユーフィー、なにもされてないわね?」
お母さんが耳打ちをしてきたので、小さく頷いた。
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