アルケミスト(調合師)

3/7
前へ
/66ページ
次へ
「あっ、でも1回家に帰らなきゃだし、晩御飯の支度もしなきゃ」 「ならば妾が説明しよう、そしてその晩御飯は妾も頂こう、案内せよ」  そう言うとスフィアとは少し違う光の球を作り出して、その球におしりをつけた。  光の球は魔女を乗せて浮かび上がり、視認出来る程度の上空へと飛び去った。 「マイペースなお姉さんだなぁ」  この時の私はその程度の認識だった。  声も届かなそうだったので、文句も言わず帰路につくこととした。 「ただいま」 「あら、おかえりなさい」 「ミルク取れたよ!」 「いつもありがとね、それじゃあシチューにしようかしらね」 「あとねお母さん」 「なに?」  お母さんの背中を眺めながら、私は椅子に腰を掛けた。  今日出会った魔女のこと、魔法のこと、晩御飯を食べに来ると言っていたこと、話したいことはたくさんあったが、それらは一瞬でその必要を失うこととなった。 「失礼するぞ、『原祖の魔女』ティエリアだ」 「……原祖の魔女?」  お母さんはこちらに視線を送り、魔女に穴を開けようと言わんばかりに凝視する。  その瞳からお母さんがその存在を知っていて、懐疑的な感情を抱いていることは見て取れた。 「晩御飯とやらを頂きに来た、ゆるりとしておくので、丹念に仕立てあげよ」 「突然の来訪ですね、ユーフィーになにをしたのかしら?」 「おや? 包丁に込められているそれはスフィアだな、小娘も大したものだったが、母譲りというわけか」  お母さんからは普段感じられない警戒心も滲み出始めて、それを一蹴するかのように微笑を携える魔女。  不穏な空気が漂ってどうにも息が詰まるというか、居心地が悪い。  この魔女をお母さんは知っていて、よい印象を持っていないのだろう。 「と、とりあえず手伝うから晩御飯にしようよ!」  手を叩いてこの空気を打開せんと台所に乗り込むも、私を無視するように2人は視線を逸らさなかった。 「……怖いんだけどなぁ」  ぽつりと呟いた私の一言に、お母さんがぴくりと反応し、視線は逸らさないまま、溜息をついた。 「ひとまず晩御飯はお出ししましょう、そこからお話を聞かせて頂きます」  お母さんは妥協するように提案し、魔女も「懸命だな」とあっさりとこれを快諾した。  家が傾くんじゃないかと思うくらいの緊張感だった。 「ユーフィー、なにもされてないわね?」  お母さんが耳打ちをしてきたので、小さく頷いた。
/66ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加