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捨てる
遊びに行く時に持って行ったバスケットボール。
家に帰り、親に聞かれて気づいた。
バスケットボールを持って帰るのを忘れてしまった。
急いで遊び場に戻って探したけれど見つからなかった。
ただそれだけの事。
「今度からは気をつけようね」
それで終わりではダメだったのだろうか。
小学校低学年の私にはそう思う事すらできず、失くした自分にどんな罰が与えられるのか怯えていた。
今の私なら分かる場所。歩いて帰れるぐらいの距離だっただろう。
ど田舎の夕暮れ時は、車も歩いている人もほとんどいない場所が沢山ある。
車に乗せられていた私は、私ひとりだけで降ろされた。
何を言われたかは覚えていない。
捨てられるという現状だけは理解できていた。
私は私が忘れたバスケットボールと同じだ。
ぽつんと置き去りにされ、消えてしまうのかもしれない。
私をその場に置いて走る車を必死に追いかけた。
ただでさえ足が遅くて小さな私が車に追いつける訳がない。
けれど走って追いつかなければ永遠にひとりになるような恐怖が襲い、泣き叫びながら車を見失わないように足を動かした。
待っていれば迎えに来てくれる。
そんな事は考えられなかった。
そんな事も考えられない歳の子供だった。
私が走れなくなった頃、車が止まった。
もう疲れ切っている足を何とか動かして車のそばに行く事で私は少しだけ許された。
何か言われていても、私は謝る事だけしかできなかった。
言ってる事を理解して反省して謝罪なんてできる余地もなく、車に乗る為にただ「ごめんなさい」と言い続けた。
そして私はやっと車に乗る事が許された。
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