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真っ白な空間に、ただ独り立ち尽くしてる。
無音で無温な空間に独り。
僕はただ、立ち尽くしているんだ。
「だれ?」
目の前に見える幽霊型のシルエット。
大きさは僕と同じくらい。顔から腰までは人の形を保っているのに、その下からはだんだんと細く伸びていく。
そんな物体に声をかけたけど反応は見られなかった。ただ、シルエットは蜃気楼のように輪郭が暈されている。
「化け物」
ぱちぱちっ。
挑発的な言葉をかけた数秒後、音を立てながら、真っ黒だった顔部分から突然に現れ瞬いた目。
そんな化け物に目視される。
『がはっ!』
「えっ?」
声を出した化け物は口を大きく開けた。
ギザギザっと尖った奥にある口中は貫通していて、化け物よりも奥の白の空間が続いている。
恐ろしくも悍ましい目つきは僕を睨むように細めていき、またその目はゆっくりと閉まっていく。この時、同時に口も塞がる。
そしてまた真っ黒に戻った。
「おい化け物、僕を殺してみろよ」
夢だと確信していたこの状況を良いことに、僕はもう一度挑発したんだ。すると、怒ることもしない化け物の蜃気楼が徐々に止んでいく。
怖気付いたのだろうと、心を油断させたその数十秒後。完全な形となったシルエットは、それは一瞬だけ、僕に似ていると思えた。
瞬間。
1秒にも満たない速さ。
化け物の身体から広がる黒に囲まれてしまった。
「うわっ」
驚きと本能的反射で体を硬直させてしまったけれど、夢という確信から、蹲ることも目を瞑ることもしなかった。
真っ白な空間から真っ黒に変わったこの空間は、真っ白よりも一段に静寂で寂しさを感じた。
『殺せる』
はっきりとした太い機械混じりな声。
僕の頭の中と空間に響いた。そして、目の前に現れた大き過ぎる一つの目が僕を目視していた。※
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