エストレリャス

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『ゆかしき諦念 ほのぐらき燈火(ともしび)』 かつて、大日本帝国は、 ナルチシズムに彩られた 輝かしき幻影を見た。 それは「富みの神(マモン)」に 捧げられた理性の光であって、 国家は大東亜共栄圏なる シナリオを、 大東亜戦争なる 「錬金術」により 実現せしむと勇み、 試みたのである。 軍部は、威(い)をもって 演出に賭(と)した。 民族の内奥に宿る 真の光明は召し上げられ、 たばねられて、固き統一体とされ 国民は一元的アイデンティティを 割り振られて、 国家プランへの強制参加を 余儀なくされた。 光は、詩人ノヴァーリスの言う 「幼くて、哀れを誘う」 ほどであったために、 民は総じて反(そむ)かず、 大義として 「まばゆき死」を負うた。 兵卒は、ホムンクルス(人造人間) 時に、ハインツェル(童子神)のごとく「まぶしき影」の下に機能した。 浮慮は、 無力という武器を採(と)りて 予現者となる。 先日封じられし 感性の正しさに依りて 進化した作家の眼差しは、 観念の解明に非ず、 事実の照明として、 我に「見ること」を識(し)らしむ。
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