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表紙カバーに
デビッド・ホックニーの絵が
使われており
タイトルと合わせもって
件(くだん)の内容だと察しがついた。
途中、ホロリと泣けたし
生理的な興奮があった。
声をたてて笑った。
夏、存分に海で泳いだ日の夜
自分の身体が波の感触を
覚えているように
読後に心地よい波が
何度も押し寄せる。
小説は16歳の少年の
一人称の語りで構成されているが
その文体は、60年代後半の
ゲイ・レヴォリューションの
手段としての告白風でもなく
抗議調でもない。
主人公と
彼のパートナーは
お互い好感を抱き合って後
段階を経て行為に至るので
筋だては自然だし
行為の描写は正直で
時にユーモラス。
彼らの背景、日常の風景や
その他の人物は控えめに
収まっているが、過不足なく
シーンの切り取り方が巧みで
映画でいう編集の才を感じさせる。
人物の配置に無理がない。
ダイアローグは短く
思い切りがいい。
直截な表現はあっても
卑俗さや粗雑さを免れ得ている。
えてして
こうした青春小説の主人公は
対する世間に皮肉な目を向け
過剰な言葉の攻撃を仕掛けたがるが
それもない。
彼は、大多数とは違う
自身の傾向を自覚しており
傾向の変更のもくろみや
そのあげくの悲劇がない。
行為前も後も
主人公の性的同一性は
ゆるがないし
対象を見定める目も確かだ。
自分は男だけれど…
という認識は
男なのに…
という苦悩を超える。
主人公は
自分自身たるために
努力しているのであり
自らを敵視してはいない。
したがって
政治と暴力を除き
ドラッグも、アルコールも
神経症も、精神分析も
この作品の重要なモチーフ
とはならず
シンプルでのびやかな作風は
著作と訳者の相性の良さまで
感じさせる。
礼節あるキャラクター
抑制の利いた描写
著者一流の美学を感じさせる
品格ある文体
エレガントな作風で
E・M・フォースターの
『モーリス』も
私の好きな一冊だが
ゲイ文学を文学たらしめる要素を
『潮騒の少年』の訳者は
文体の意匠の創造に負うとしている。
文体とは、作家の
個性的な特色をなすものであり
そこに作家の生き方のスタイルが
濃く滲む。
読者である私は
文体と作家との同一性を認めた時
著者及び著作品に、より心惹かれ
その文学的価値や芸術的質に
信頼をおく。
とすれば…
体験をより良く活かした著作品が
面白いのは道理であろう。
そこでは作家の事実(生活)と
真実(作品)とが
合一(同一・全一)を果たしていると
思われるから…
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