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ようやく霧が晴れ、風を感じ、息を吐(つ)く。
闇は闇のままであったが、晴れた夜に昇る月を眺め、星を仰ぐゆとりを得たのだった。
その頃である。
弦楽器を奏で、乾いて暖かい声で歌う青年に出会ったのは。
海辺に近いリバーサイドに青年が停めた車の中で、ふたりで聴いたのがこの歌だった。
希望の糸は巻き戻されて、天才詩人陽水の、どの曲とも結ばれたがったが、この歌には、大海が地の水脈を統(す)べるような吸引力があって、自分の心が、そっくりそのままこの歌の内にあり、似通った熱を持って、出会った青年の内にも、この歌が在る…
と感じられた。
これは再生の歌であり、求愛の歌である。と同時に、エロス(生)の領分たる友愛の歌でもあって、エンカウンター(真の出会い)を果たした後の、二者のラポート関係、その類希れなインティマシー(親密さ)を讃え描いて、耳、傾ける者を「生活と想いを共有する自由」へと誘(いざな)い、愛情は信頼によって分かち与え合える…
と詠む。
他者への提案と、他者との創出の歌であり、「イコールパートナー」への献上歌でもある。
結婚式も指輪交換もなかったが、市役所にふたりで一枚の書類を届け、青年と私は、各々の世界に対して共同で責を負う将来へと舟を出し、未来へと舵をとった。
舟を漕ぎつつ声を合わせて歌い、言葉の軽さをふたりで笑い続け、寄り添って在(あ)ることに喜びを感じながら、相手の腕枕で眠りに着けば、夜空には月が輝き、満天の星が煌めいて、惑(まど)い巡(めぐ)った昔日(せきじつ)の闇さえ眩(まばゆ)く、陽水の魔法に変容を遂げる。
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