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その3のつづき
麻衣
大打と私はじっと視線を合わせていた
サングラスを取ったヤツの眼…
それは、これまで見たことがないほどの濁った”輝き”を感じたよ
汚れきった大都会のどぶ川のように淀んではいるが、あくまでギラギラなんだ
無論、倉橋優輔とは全く違う目なのは明らかだったけどね
そして頭の中では、昨日のアンコウ先輩との会話を思い浮かべていた
...
「…麻衣、だからねえ…、ここまで来たんだってば‼関東のてっぺんの意思が下されるんだよ…!まあ、逆に言えば、もはや東龍会の一存で判断できるとこを超えちゃったってこと。私はそう見てるわよ、うん…。剣崎さんはその辺、なんか言ってないのかい?」
「うーん、まあ、それに近いことは言ってたかな…」
「ふう…、何とも呑気なんもんだね、アンタは。3日後には麻衣と倉橋さんの婚約披露パーティーなんだろーが!そこには、西から多くの業界連中が一堂に会するんだ。関東がそれ、見逃すもんか。まあ、相和会だって、そこんところは読んでるだろうけど…」
昨日会った時、アンコウは、そう鋭い指摘をしていた
さらに、大打兄弟についても…
「あいつら、例のテープに”付録”で入っていた”指先”見ても、さして驚かなかったらしいわよ。東龍会には、ひょうひょうと、その”ブツ”を届けたってさ。むしろ、東龍会の会長の方が愕然としてたみたいだね(苦笑)。まあ、又聞きだから、その程度の度合いはよくわからんが…。でもねえ…、心底イカれてるわ、あの兄弟…」
「…」
私は黙って聞いてたわ
...
要するに、こういうことが言えるんだろうよ
東龍会はいろんな諸事情、諸情勢を考えざるを得ない
その世界で生きてるなりの立場は、当然ながら重くのしかかる訳よ
一方、大打兄弟となるとだ…、余分なことは考えていない
すべて割り切っている
それこそ、”一切すべて”…
だから相和会と私が、チンピラコネクションに加担する人間を見せしめに痛めつけたり、東龍会とのパイプを間接的に東西各組織に向けて曝してもどこ吹く風なんだ
”自分たちは、何でもやれる”
やくざ業界外のファジーなポジションを、それこそ最大限、いや、無限大に活用している
その活かし方も、とことんNGなしで貫いているから、常に危険度は増すだけでなく、日々変容しているんじゃねーか
...
結局は大打兄弟にとって、仲間など人間として見ていないんだろうさ
指示したガキやチンピラの一人や二人が自白しようが、それで、他の何人かがビビッて用が立たなくなれば、また他で調達すればいい…
所詮、使い捨て感覚だ
そんな程度で捉えてるよ、奴らは
それは明日、私が実際に肌で感じ取ることになるんじゃないかな…
アンコウからの話で、その時漠然とそう直感した
...
「…それと、もうひとつだよ、麻衣。これは心して聞いときなさいよ!この前に言った新たな刺客、すでに都県境入りしてる可能性が強い…。おそらく複数いるわね。大打が何でもアリなら、早速明日にもぶつけて来るかも知れない。バグジーって男とアンタのボディーガードのお姉ちゃんにも、知らせといたほうがいいよ」
この時のアンコウは、今までにない大真面目そのものって口調だったよ
「先輩、私のこと、ここまで心配してくれてうれしいわ。今日の情報、ありがたくいただく。とにかく助かってるんですよ、私だけでなく剣崎さんとかも。何しろここに来ての局面は、ガキ界隈を舞台とした情報戦の様相を呈してるんですもん。なので、さすがの剣崎さんも勝手が違って、先輩の力を得なかったら対処しきれなかったでしょうから…」
「ヒヒ…、嬉しいこと言ってくれるわね。コトが済んだら、手当ては弾んでくれるんだろうかねぇ…」
「ええ、たんまり出してもらいますよ。まあ、頼みます。引き続き…。とりあえず、明日が済んだら一報は入れますから」
深海魚は「じゃあ、明日は気を付けて…」とだけ言って、最後はいつも通りだったわ
...
「…ってことよ。アンタらからの架空請求を受けてる当事者からさ、私が委任されてね」
私は道也に目で合図した
道也はソファから立ち上がり、デスクにふんぞり返ってる大打ノボルの前に、一枚の紙を差し出した
「それが委任状だよ、私への…」
「…」
大打はその委任状を手に取らず、机の上に置かれたままで目を通していた
そして、咥えていたタバコにライターで火を点けた後、委任状を手にしたわ
すると…、一方の手の中にあったライターを再び点火するや、灰皿の上で委任状に近づけた
”ボウーッ…”
次の瞬間、委任状は勢いよく火を発し、あっという間に灰皿の中で黒いカタマリと化した
「…」
フン…、しゃれた真似してくれんじゃん…
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