59人が本棚に入れています
本棚に追加
/94ページ
赤ずきんとでもいいますか
一生懸命走ってるのに前へ進んでる気がしなかった。歩き慣れた帰り道なのに、景色は違うものに見える。
街灯って、こんなに暗かったっけ。
いつもは気にしてなんかいなかった灯りも、すがり付きたい今日に限って頼りなく感じた。
あまりの恐怖に、走っていた足が縺れた。
小石の多い傷んだアスファルトに、ズザッと身体をずってしまい、剥き出しだった腕と膝に擦り傷を作った。
「あっ」
転んだ拍子に、肩からかけていたバッグが前方に飛び、ポケットに入れていた携帯が飛び出して、数メートル先まで回転しながら滑って行くのが見えた。
「うぅ」
膝を抱えて呻く。痛いがそれどころではない。後ろから忍び寄る気配のほうが今はよっぽど一大事だ。
怖い怖い怖い。
人は身体が竦むと、悲鳴さえあげられないものなのか。
それほど長距離を走った訳ではないのに、息は過呼吸のように乱れて、上手く酸素を取り込めない。
初夏の生ぬるい空気が、余計に肺を苦しく感じさせる。
立とうとしてるのに、身体全体がガクガクと震えて上手く力が入らなかった。
最初のコメントを投稿しよう!