僕は元からウサギだよ

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カズマ君は自分が背負っていたリュックを膝の上に移動させると、チャックを全開にし、名刺をどこに仕舞おうか悩んでいた。 少し考えてから、一番奥底に仕舞おうとしているのか、名刺を握りしめたまま、ずぼっとリュックに手を突っ込んだ。 「あ、ちょっとまって」 それではグシャグシャにして、結局無くしてしまう。 自分のバッグから化粧ポーチを出すと、さらにその中から小さなポーチを取り出した。普段は絆創膏だけをいれている薄型のビニルポーチだ。 「これ、使って」 ちょっと焦りながら中身を出し、代わりに財布から100円と10円の小銭を出してあるだけいれてあげた。 「ここに、その紙入れておこう。あと、お家の外から電話かけたいときはお金が必要だから」 預かった名刺を入れ、ポーチのチャックを締め鞄にしまってあげる。 「これで失くならないよ」 「もらっていいの?」 「うん。カズマ君と仲良しになれた印に、使って貰えたら嬉しいな」 わたしに出来ることを必死で考えた。助けてあげたい。見ていることしか出来ないなんて、情けなかった。 「お姉ちゃんありがとう」 ニコッと笑ううさぎに、きゅんとときめいた。 「わたしは(ゆずる)だよ。よろしくね」 少しでも役に立つことが出来て、わたしが救われた気分だった。胸に染み渡るこの気持ちは何だろう。涙の跡を拭うように顔を撫でると、カズマ君はひげをピクピクと動かした。 八雲さんは一度周囲を警戒するように見回すと、少しだけ早口で話し始めた。 「ちょっと難しい話をするけど、よく聞くんだよ」 人差し指を彼と自分の間に立て、言い聞かせる。真剣な雰囲気を感じたのか、カズマ君も神妙な面持ちになった。 「パパとママがカズマのことを信じてくれないのは、"見えない"から仕方がないことなんだ」 「どうして、パパとママには見えないの?」 「カズマの本当の姿は、特別な目を持った人にしか見えないからだよ」 「ーー?」 「俺と弦の目の色がわかる?」 「っあ!赤い。みんなと違うね」 カズマ君はわぁと感嘆の声をあげた。 「そう。これを持っている人と、仲間にしか見えない」 「なかま?」 「カズマには、千歳が狼に見えるだろ?」 「ちとせ?」と呟いたカズマ君に、千歳君は僕の名前だよと隣から教えてあげていた。 「うん!狼さんすごい勢いで追いかけてくるから凄くこわかったよ」 その体験にはわたしも覚えがある。 千歳君を横目にみたら、彼はちょっと気まずそうにしていた。 「ガウーって叫びながら飛びかかってきて、ぐわーって大きな口を開いたから、もう僕は食べられちゃうのかと思ったら、ベロベロ顔を舐めたんだ」 「........」 八雲さんとわたしは黙って顔を見合わせた。
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