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「結、愛してるよ……」
激しい口づけの余韻のまま抱き締めると、結人もきゅっと抱きついた。
「こんな所で、キスするなんて……」
そう言いながらも、満更でもなさそうだ。彼は甘えるように、一哉の胸に顔を埋めた。
「今夜は、なるべく早く帰るから」
「ほんと?」
「ホワイトデーだろう。旨い寿司でも頼んでワインでも飲もう」
「……うん、待ってる」
結人がフワリと笑う。
(最高に可愛い……)
もはや罪だ。クールな表情を装いながら一哉は盛大に惚気ると……。
「今夜は寝かせないからな。覚悟してろよ」
彼の耳元で情欲をアピールした。
「……っ、明日も仕事だから……激しいのは、嫌だよ」
真っ赤な顔で釘を刺す恋人に一哉は言った。
「善処するよ――」と。
***
夕方の会議終了後。一哉は鬼のような速さで書類を捌き、資料をまとめた。
理由はひとつ。早く帰って、この腕で結人を抱きしめたいからだ。業務を終え職場を出たのは午後八時頃だった。予定より三十分も早く退社することが出来た。
(上出来だ……)
自分で自分を褒めてやろう。正面玄関を抜けたところで一哉は結人宛てにトークを打った。『早く帰れそうだ』と。既読にはならなかったが、彼も帰宅する頃だろうと、大して気にも留めなかった。
津島からマンションまでは地下鉄で二駅だ。徒歩を入れても通勤時間は二十分と少し。今はそんな時間すら惜しい。地下鉄構内に続く階段を急ぎ足で降りた。ベストタイミングでホームに車輛が到着する。
乗り込んでドア付近に立った一哉は再びスマートフォンを手にした。
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