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(まだ読んでないのか……)
結人の返事はなかった。それどこかメッセージは未読のままだった。
もしかして気付いていないのか。それとも、既に帰宅し、風呂に入っているのかもしれない。しかし、一哉の予想は外れた。
マンションに着く直前、着信を知らせるバイブ音が鳴った。画面には結人の文字があった。
「……結、どうした?」
『一哉、ごめん。トーク、今見たんだ。今日は俺のほうが遅くなりそうで……』
「そうか……じゃあ先に食事を頼んでおくよ」
聞くところによると、仕事でちょっとしたトラブルがあったそうだ。それなら仕方がないと通話を続けたまま、エントランスを抜けた時だ。
『橘さーん、この書類やわ。ここに社印と所長のサインが欲しかってん!』
「――⁉」
耳に届いた関西弁に一哉の足は止まった。不機嫌指数が一気に上昇する。
「……どうして菅原部長が丸井に行っているんだ⁉」
電話の向こうにいる結人に向かって声を荒げた。
『昼間の書類に不備があったみたいで、帰る前に急に来て……あ、ごめん。切るよ』
「おいっ、結っ……待っ……!」
待てと言う前に通話が切られた。
(菅原がわざわざ足を運ぶ必要なんて無いだろう……!)
部下にやらせたらいい話だ。責任者である彼が、わざわざ面倒を買ってまで丸井に足を運ぶ理由は一つに決まっている。目的は……結人だ。
「……菅原の奴、調子に乗りやがって!」
こうしてはいられない。一哉は地下駐車場へと続く階段を駆け降り、愛車へと乗り込んだ。
目的地は丸井の東京支社だ。
押しの弱い結人のことだ。この後、菅原に誘われて飲みに行く可能性も充分にある。
「忠告しておくべきだったな……」
焦燥感に駆られるまま一哉はアクセルを強く踏み込んだ。
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