※勘違いの顛末(ホワイトデーSS)

17/35

2354人が本棚に入れています
本棚に追加
/486ページ
「ほな、大槻さん、また明日な。橘さんに優しくしたってな」 一哉は何も返さなかった。スラックスに両手を突っ込んで去っていく菅原の背を、ただ無言で睨みつけた。 「ごめん、一哉。遅くなってしまって……書類が通らないと何も進まないって言うから」  結人が謝りを入れてきた。  違う。詫びるところはそこじゃない。苛立ちを抑え切れずに一哉は尋ねた。 「……菅原と連絡先を交換したのか?」 「え? ああ、うん。今後やり取りする事もあるだろうって菅原さんが……」  あれだけモーションをかけられて、どうして警戒しないのか。その無防備さにも怒りすら感じたが、一哉は堪えた。結人に感情をぶつけるのはお門違いだからだ。  彼は続ける。 「それに、来月から津島の担当になりそうで……菅原さんの部署とのやり取りが増えそうなんだ」 「担当は先輩じゃないのか? それにお前は営業事務だろう」  彼の基本的な仕事は営業員をサポートすることだ。現場に同行する機会は少ないはずだ。 「そうなんだけど、支社長に任せたいって言われて……先輩は違う部署を担当するんだって」 「……………」  どうしてこんな展開になる。  一哉は黙りこくった。怒りや焦り、不愉快さが混じった感情が沸々と湧いてきた。表情から察したのだろう。結人が諭すように語りかけた。 「大丈夫だよ。菅原さん、あんな風に言ってたけど、俺に変な感情はないよ。だって、好きな人がいるって言っていたし」 「……どこにそんな確証があるんだ?」  自分でも驚くほど低い声を一哉は放った。大人げないとはわかっていても、抑えが効かなかった。
/486ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2354人が本棚に入れています
本棚に追加