※勘違いの顛末(ホワイトデーSS)

18/35
2354人が本棚に入れています
本棚に追加
/486ページ
「確証って言われても困るけど……多分、大丈夫……」  自らの発言に自信があるのか、結人は言い切った。 しかし、一哉には通じない。 「結は呆れるほど鈍いし、警戒心もないからな」  感情に任せるまま冷たい物言いとなってしまった。結人の瞳が不安気に揺れた。しまった。言い過ぎた。一哉は一度、瞳を瞑って気持ちを落ち着かせると……。 「取りあえず帰ろう……ここで待っている」  菅原のことで、いちいち喧嘩などして何になる。それは結人も同じ気持ちなのだろう。彼は「わかった」と切なげに微笑んでから、荷物を取りに正面エントランスへと踵を返した。  車に乗り込んでも二人は終始無言だった。しかも大通りは混雑し、進みが悪かった。どこかで事故でも発生したのか、サイレンの音が鳴り響いていた。 (しまったな……)  ハンドルを握ったまま、一哉は助手席に座る結人へと盗み見た。彼はどこか寂しそうな顔で視線を伏せていた。 (俺としたことが……)  嫉妬とは怖いものだ。  以前の自分は、そんな醜い感情に支配されなかった。これは結人を愛しすぎるがゆえだ。彼のこととなると、どうしても愚かになってしまう。  早く帰って触れ合いたい。いや、その前に謝ってからの仲直りだ。「悪かった」と言って、抱き締めて口づけよう。一哉はそのタイミングを窺いながら、ナビゲーションで渋滞状況を確認する。  大通りのルートは赤くなっていた。解消まで時間がかかりそうだ。迂回ルートを検索すると、少し先に左に折れる細い路地があった。普段は使わない一方通行の通りだ。回り道となるが、渋滞に比べたら早く帰宅出来ると判断して、一哉はハンドルを切った。  その時だった、結人のスマートフォンが鳴り響いた。
/486ページ

最初のコメントを投稿しよう!