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「……あ」
液晶画面を見て結人が声を落とした。
「……仕事なら出ていいぞ」
気遣いはいらない。彼の電話が終わったら謝りを入れよう。一哉は細い路地の運転に集中した。
「えっと……うん」
結人が躊躇いがちに通話をタップして、端末を耳にあてた。
『あー! ごめんな橘さん、さっきの書類やけど本部長からOKもらえたわ。急がせて堪忍やったで』
「――⁉」
菅原の声が静かな車内に響いた。思わずブレーキを踏みそうになるの堪えて、一哉は平常運転を心掛けた。
(ダメだ……抑えろ)
またしても菅原だ。浅はかな感情でこれ以上、険悪なムードにしたくない。一哉は奥歯を噛んで苛立ちを逃がした。
「そうですか。良かったです……計画が滞りなく進めばこちらとしても安心です」
事務的な言葉で結人は早々に電話を切り上げようしていた。しかし、菅原は違ったようだ。会話を引き延ばしてくる。
『ほんま橘さんの作った資料はわかりやすいわー』
「とんでもないです。ありがとうございます」
純粋に嬉しいのだろう。結人は嬉しそうにはにかんだ。
二人の会話に耳を澄ませながら一哉は運転を続けた。
車は細い路地を抜け、区が運営する公園沿いの道路へと入った。公園の裏手にあたるこの道は、人通りも走る車輛も少ない。車は法定速度を守りながらルートを進む。あと十分もすればマンションに到着だ。しかし、電話は一向に終わる気配を見せない。
『橘さん、今度食事一緒に行こうな。仲良くなりたいねん……話したいこともあんねん』
(話したいことだと……?)
ハンドルを握る手がピクリと動いた。
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