※勘違いの顛末(ホワイトデーSS)

32/35
前へ
/486ページ
次へ
「よう言うわ。聞かせたくせに」  少々呆れ顔で菅原が笑い返す。 「電話を切らなかったのは、そちらでしょう」  射貫くように見据えた。 「まあ、せやな。言うとくけど全部は聞いてへんで。それにしても大槻さん、しつこかったなぁ」  どこまで行為を聞いていたかは知らないが、電話は長いこと繋がっていたようだ。 「褒め言葉として受け止めておこう」  何とでも言えばいい。一哉は勝ち誇ったようにして口端を上げた。 「とにかくラブラブなお二人さんってことはよくわかったわ。ほんまに御馳走様でした」  菅原が距離を詰める。間近で視線がぶつかった。言葉とは裏腹に挑戦的な態度だった。一哉は目を逸らさずに睨みを飛ばした。 「いやー色っぽい声やったなぁ。俺の息子も思わず反応したわ」  行為中の喘ぎを思い返しているのだろう。菅原が瞳を熱っぽくさせた。 「それは申し訳ない。でも、ハッキリとわかったでしょう? 貴方に入る余地はありませんので、結人の事は潔く諦めてもらいたい」  結人の甘い声を聞かせたことは勿体ないが、しょうがない。いかに愛し合っているかをアピールすることが目的だった。一哉に後悔はなかった。忠告を受けた菅原はピクリと片眉を跳ね上げたあと、瞼を蕩けさせる。 「ホンマによかったわぁ……大槻さんの……男らしい声」 「そうですか。俺の声…………はっ?」  この男は今、何を言った?   瞠目する一哉に菅原はニコリを微笑むと……。 「だーかーらぁ、大槻さんの声やん。低くて男らしくて……しかも色っぽくて、たまらんかったわぁ」  両手を組んで悦った。
/486ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2377人が本棚に入れています
本棚に追加