<5・ゆるされない。>

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 *** 「おはよう、みんなー!」  お、来た来た。教室に元気よく登校してきた瞳を見て、猪瀬(いのせ)ミカはすぐに立ち上って駆け寄った。 「おはよう、瞳ちゃん!ねえねえ、海斗君と付き合い始めたってほんと?ほんと?」  ミーハーなフリをして尋ねれば、男勝りの彼女の顔がぽっと赤くなる。可愛いところもあるもんだ、とミカは思わずにやにやしてしまった。声が聞こえたのだろう、教室の隅の方に立っていた海斗が露骨に顔を逸らしている。こちらを見ていなくても耳が赤くなっているので、照れているのはバレバレなのだが。 「い、いやその、付き合うというかなんというか。と、友達から始めてもいいかなと言っただけであってだな……」 「それを付き合い始めたと言うんですー!ねえナアちゃん?」 「そうそう、ほんとそれ!」 「おおおお、お前らなあ!」  赤くなった瞳を、友人と一緒につんつんとつつきまくる。――彼女は何も、覚えてなどいないだろう。隣の“ナアちゃん”もだ。瞳も海斗も大怪我をして入院していた、そのはずだった、なんてことは全て。  白雪姫の眠りは、彼女が毒りんごを吐き出せば夢から覚める。呪いが解ければ、全て当然のごとく元通りになるものであるのだから。 「わ、私のことはいいんだよ!それよりもさ!」  話を逸らすように、瞳は言った。否、彼女の性格からすればそれも本心だろう。 「井口さん、大丈夫か?家が火事になって……大火傷して入院したって聞いたんだけど」  全く、お人好しにも程があるというものだ。他のクラスメートはみんな、未散が瞳に嫌がらせをしていたことを知っているのに、彼女だけがそれに気づいていないのだから。 「もう、戻って来れないかもね」  ミカは笑顔を作って言う。  そう、戻ってくることはないだろう。未散が瞳と海斗に化した呪いは全て、人形を焼き捨てると同時に未散本人に返る。最初から、そういう呪いであったのだから。  幸殺し。その本当の意味に気づくことさえなかった者の末路の、なんともあっけないことか。 「残念だけど、仕方ない。きっと、そういう運命だったんだよ」  楽しい喜劇、ごちそうさま。  猪瀬ミカ――否、災禍の魔女は心の中で呟き、こっそりと舌なめずりをしたのだった。
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