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決定的な転機は、そのすぐ翌日に訪れた。
瞳の弱点を見つけるべく、彼女の様子を伺っていた未散は見てしまったのである。学校の校舎裏で、瞳が同じクラスの男子と二人で話しているのを。
その男子はクラスでも一番成績が良くて、一番イケメンと評判の城木海斗だった。瞳ともよく話している姿が散見されていたため、忌々しく思っていた相手の一人でもある。
「無理してるだろ、瞳」
海斗は松葉杖をついて壁に寄りかかっている瞳に、心配そうに声をかけていた。
「みんなを……特にミカを心配させたくないのはわかるよ。でも、いくらお前が強いからって、顔に傷が残って足が動かなくなって、それで平気なはずないだろ。いつもずっと笑ってるから、かえってみんな心配してる。気づいてないのか?」
「んー、そう言われてもなあ……」
「辛いなら辛いって、そう言ってもいいんだ。誰もお前を責めたりしないって」
「……かもなあ」
何だ、また男子にちやほやされようとしているのか。物陰に隠れて様子を見ながら、唇を噛み締める未散の目の前で、瞳は。
「でも、多分それは誰も幸せにしないと思うんだよなあ。私のことが好きな人は私に笑っていてほしいって思ってくれているだろうし……私に不幸になってほしい誰かは、私が泣いたり落ち込んだりすると喜ぶだろうし。そう思ったら、そう簡単に弱いところなんか見せてやるもんかって思わないか?」
ほんの少し、痛みを堪えるように目を伏せた彼女に、未散は気づく。やっぱりそうだ、と思った。彼女は本当に、やせ我慢をしていたに過ぎないのだと。未散の攻撃は確かに瞳にダメージを与えていた。そりゃそうだ、ここまで立て続けに不幸に見舞われて、SAN値が削られない人間なんてそうそういるはずがない。普通の女子高校生なら尚更である。
そして同時に、彼女がうっすら“自分を呪っている誰かがいるかもしれない”と思っていたらしいことに少しだけ驚く。まさか人形を削るだけで他人を攻撃できるおまじない、なんてものに自分が晒されているとは思ってなかろうが。
「お前の、不幸を望んでいる奴がいて、そいつのせいでこんなことになってるかもっていうのか?」
「わかんない」
海斗の言葉に、瞳は首を振る。
「そんな能力を持った奴もこの世にはいるのかもしれないし……そんなものなくても、“引き寄せ”ってあるのかもしれないなって思うよ。嫌いとか呪ってやるとか、怖い目に遭えばいいとか……そう思っている奴がいると、それが実現しちまうっていうのは実際あるんだと思う。私も結構、人に嫌われる質だって自覚あるしさ。なるべくならみんなと仲良くしたいけど、そう願って誰とも喧嘩しないで生きられるなら誰も苦労しないしなあ」
だからさ、と彼女は続ける。
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