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「海斗も、しばらく私に近づかない方がいいかも。巻き込まれて一緒に怪我したら洒落になんねーって。この間ガラス振って来た時も、後輩の子や男の子達が一緒に怪我しちゃったし……もしそれが、私がなんか取り憑かれてるせいで巻き込んだとか、そういうのならほんと申し訳ないというか」
「瞳」
「!」
嘘でしょ、と未散はぎょっとしてしまった。いつも冷静沈着で、女子とあまり話すのが得意ではなくて――瞳とも、どちらかというと男友達の延長で話しているように見えた海斗が。
彼女の名前を呼ぶと同時に、その体を思い切り抱きしめたのだ。いくらなんでも、大胆が過ぎる。同時に、そんな女をどうして、という嫉妬がめらめらと燃え上がるのを未散は抑えられなかった。
その行為は、どう見ても。
「巻き込まれてもいいし、もしそうなったら俺は瞳を連れて逃げる。……俺、お前が好きなんだ。だからそんな悲しいこと、言わないでくれないかな」
その後、瞳がその言葉にOKを出したのかはわからない。頭が沸騰して、叫びだしそうになるのを堪えるのに必死で――とにかくその場からさっさと立ち去ってしまったからだ。足音を立てず、バレないように逃げられた自信があまりなかった。何故、何故あんな女のことなど。あの海斗が。クラスで一番人気の海斗が、一体どうして!
――ふざけんじゃないわよ!私が、この私が声をかけた時は冷たくあしらってきたくせに!あの女より私の方がずっと可愛いのに!
海斗に対しては、自分も何度かアピールをしたことがある。一緒に遊んで欲しいとか、授業などで一緒のグループになって欲しいとか、それを示唆するくらいの可愛いお誘いであるけれど。
しかしそんなものさえ、海斗はいつもすげなく断ってきたのである。瞳が来る前からそうだ。何か言い訳をつけて、未散より他の誰かや用事を優先させてきた彼。きっと女子と話をするのが得意ではないのだろう、嫌われているのは自分だけではないはずだとそう割り切ることによってどうにか納得してきたというのに。その海斗がまさか、瞳に対して告白するだなんて。
これが明白な、裏切り行為でなくてなんだというのだろう。確かに自分は海斗と付き合っていたわけではないが、この自分を差し置いてあんな女を選んだ時点で、悪以外の何者でもない。
――そうだわ。
ドス黒く染まった思考の中、未散は妙案を思いついた。瞳本人へのダメージだけ、に抑える必要はないのではないか。確かに彼女は傷ついているが、その傷を他の誰かが埋め続ける今の状況では望んだほどの効果が得られない。ならば、その別の誰かが、瞳のせいで傷つくとしたらどうだろう?
そう、彼女は自分が誰かに呪われているかもしれないと薄々気付いている。
ならば告白された直後に、海斗が大怪我をするようなことになれば――。
――おまじないは、二つ同時進行させちゃいけないなんてルールはないものね……!
学校の帰り、未散は心の中でニヤニヤと笑いながら文具店に向かったのである。
大きな白い消しゴムを、もう一つ購入するために。
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