<4・いまいましい。>

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<4・いまいましい。>

 海斗本人のことは、そこまで恨んでいたつもりはなかった。というのも、自分に対してやや冷たいことは忌々しいと思いつつ、いずれ己の魅力を分からせて振り向かせてやればいいとばかり考えていたからである。自分の邪魔をする女に優しくしてやる覚えはないが、自分の魅力がわかっていない無知な男には少しばかり寛大に接してやる余地がある、そう考えるのが未散だった。それは己の美貌に、絶対の自信があったからに他ならない。  だが。  そんな自分を無視した挙句、他の女、それもあの忌々しい星野瞳に靡くというのなら話は別なのだ。それも、恋心なんてものを抱くだなんて。己への裏切り行為、それ以外の何であるというのだろう。 ――まさか、こんなことになるとは思ってもみなかった。  瞳のことは長く苦しませたいと思っていたからこそ、多少“傷”も手加減する必要があったが。海斗は一度思い知らせてやれば十分だと思っていたので、少し深めに傷をつけてやったのである。流石に死ぬまでには至らなかったが、人形の胸部分につけた傷というのは絶大な効果があったようだ。海斗は、部活中に突如倒れて病院に運ばれることになった。突然心臓発作を起こしたということらしい。健康な男子でも、運動中に突然倒れるということは稀にある話だった。誰も、未散が呪ったせいだとは思わないことだろう。  彼は一命を取り留めたが、それでもしばらくは入院することになった。さすがの瞳も、告白された翌日に海斗がこのようなことになっては落ち込まざるを得なかったらしい。自分が怪我をしただけではさほどヘコたれていなかった女が、海斗が倒れた翌日は学校を休んだ。クラスメート達が揃って心配していたのが気に食わないが、本人がそれを聞いていなかったのでまあ良しとしよう。  あの女に洗脳されているクラスメート達も、あの女が学校からいなくなりさえすればいずれ目を覚ますはずだ。そして思い出すことだろう。本当の“白雪姫”が一体誰であるのかということを。自分達が、本当に大切にするべき存在を蔑ろにし続けていたという事実を。 ――ふふふ、これで、あの女も多少は大人しくなるはず。今までみたいに偽善者ぶった行いなんかしなくなるでしょ!
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