<4・いまいましい。>

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 瞳が学校を休んだその日、未散は生まれて初めてといっていいほど軽い足取りで帰路についていた。おまじないを試して本当に良かったと思う。自分の手を汚さず、忌々しい相手をネチネチと甚振ることができるという行為がどれほど気持ちの良いものであることか。犯罪と違って、証拠なんて残らない。誰も呪いで彼女らを傷つつけている人間がいるだなんて思わないはずだ。最後に人形さえ処分してしまえば、まさに完全犯罪が完成するというものである。  ここまでは大成功。あとは、瞳に最後の一撃を加えてこの学校から自主退学させてやるだけだ。 ――海斗が自分の呪いに巻き込まれた、ってことは瞳も流石に気づいたでしょう。なら、あの女の性格なら、他の人間が巻き込まれないように男友達とも女友達とも距離を置くようになるはず。ひとりで家に帰るくらいは普通にしそうよね。  ずっと考えていたことがある。  あの女が二度と学校に来たくなくなるように仕向ける一番の方法は何であるのかを。  最初は、頭に傷をつけた時にちらりと考えたように、目のあたりを傷つけて失明でもさせてやるのがいいかと思っていたのである。あるいは、足を今度は完全に潰して、車椅子でもなければ身動きできないようにしてやるとか。バリアフリーが整っていないうちの学校では通学そのものが困難になるので、それだけでも彼女を学校から追い出せる可能性もありそうだと。  だが、あの女の心を完全にへし折るにはもっと良い方法があると気づいたのである。 『巻き込まれてもいいし、もしそうなったら俺は瞳を連れて逃げる。……俺、お前が好きなんだ。だからそんな悲しいこと、言わないでくれないかな』  海斗に告白されていた時一瞬見た、瞳の顔。男勝り、ボーイッシュ、サバサバした姉御肌――そんな風に評価される彼女が一瞬、明らかに少女の顔をしていたのを。いくら強がっていようと、ヒーローぶった行いをしようと、結局星野瞳もただの女子高校生に過ぎないのである。ならば、一番苦しめる方法は明白だ。こいつが“女”でなくなってしまえばいいのである。 ――股間部分に傷をつけたら、何が起きるのかしら。  ポケットの中で、袋に入れた人形を握り締めながら思わず笑みを浮かべる未散。夕焼けに染まった人気のない住宅街、他に通り過ぎる者もいないから構わないだろう。本音を言うと、声を上げて笑い出したい気分だが流石にそれは我慢だ。勝利の雄叫びを上げるのは、あの女が完全に再起不能になってからでいいだろう。
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