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――今までのおまじないの効果から察すると、事故が起きるだけとは限らなそうよね。海斗は心臓発作だったんだし。だったら傷の場所によっては、“事件”も十分起こりうるんじゃなくて?
女性器を傷つけられるような事件。そうだ、あの女が強姦されてしまうような事件が起きるのが一番良い。見目は悪くないのだから、狙っている変質者は既にいてもおかしくないだろう。自分がその存在を、ちょっと呪いで後押ししてやればいいのである。
強姦されて、二度と子供が産めないような体になれば。女である自分を失ってしまえば。いくら強靭に見える星野瞳であっても、立ち上がることはできないはずである。ましてや、己を支えてくれたかもしれない海斗も入院していて隣にいないとなれば尚更だ。
――私ってばほんとあったまいー!むしろ、最初からこれやっても良かったかも。ふふふ、おもいっきり針でブスブスに刺してやろーっと。絶対気分がいいに決まってる!
ニヤつきながら公園を抜けようとした、まさにその時だった。
「本当に、救えないほど馬鹿な人ですね、貴女は」
「!」
はっとして振り返った。おかしい。誰もいないことを確かに確認して公園を横切ろうとしたはずなのに――何故、またしても彼がそこに存在しているのだろう。
あの青い髪の、小柄な黒コートの少年が。
「他人が傷つくのがそんなに面白いですか?自分で直接手を下す勇気もない、臆病者なくせに」
「……知ったようなクチをきくのね、あんた」
どうやら本当に、この少年は未散が何をしているのか理解しているらしい。魔女の部屋、のことも突き止めていたし、自分の名前も知っていた。ならばもう隠す必要もないだろう。
「私は、非難されるようなことなんかひとっつもしてないけど?ただ人形つかって“おまじない”してるだけよ。あの女が不幸になりますようにって!それが犯罪?違うでしょ、誰にも立証なんかできないはずよ」
彼が全て知っていようと、どこの誰であろうと関係ない。殺人や窃盗とは違って、自分がやっていることは法律で裁くことなど不可能だ。一体どこの誰が、人形を作ってそれを削ったら相手が本当に怪我をした、傷ついた、死にかけた――そんな馬鹿げた話を信じるだろう。自分だって、他のおまじないをやって成功した実例がなければこんなもの信じなかったに違いないのだから。
「……僕は、どうしても疑問だったのです。一つ教えて頂けますか」
はあ、と少年はため息を一つついて言った。
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