<4・いまいましい。>

4/5
前へ
/24ページ
次へ
「何故、貴女は……いえ、貴女達は。おまじないや魔法、あらゆる言葉の類を、“自分が幸せになるため”ではなく“他人を不幸にするため”に使うのでしょう?おまじないの類の全てが悪ではありません。魔女の部屋、のおまじないはともかく……それ以外にも有効なおまじないを載せているサイトや雑誌はいくらでもあって、その多くは“自分の運を上げる”“自分の幸せを掴む”おまじないです。貴女だってそれを選べたはず。なのに何故、他人を貶めることで自分を上げる方向でしかものを考えられないのですか」 「あんたみたいなお子様にはわからないわよ」 「ほう?」 「私が幸せになるためにはね、どうしても邪魔な存在がいるの。そいつを排除しない限り、私の幸せは有り得ない。だからそっちを先に実行する、それだけよ!」  綺麗事ばかり言うこのガキは、きっと世間の本当に厳しさなど知らないのだろう。  クラスで学年一の成績を取りたくてどんだけ勉強しても、自分をいつも上回ってくる生徒が一人いるとしたらどうすればいいか?その生徒がいる限り絶対に一番になれないのだとしたら、いくら自分の成績アップを祈願しても意味がない。そいつの足をいかに引っ張るか、トップから引きずり下ろすかを考えるのは至極当然のことではないか。  アイドル、スポーツ、仕事、あらゆる競争がそうだ。こいつさえいなければ自分が選ばれし者だった、こいつさえいなければ自分が一番だった。そんな状況で何故、他人を蹴落とさない方向でものを考えることができるだろう? 「星野瞳は、存在そのものが私の人生の邪魔であり、悪なの。悪は断罪され、正義は勝つのが道理でしょ?私はいつだって正しいんだから、これは誰にも非難される覚えなんかないわよ。だって私は、私が幸せになるため精一杯“努力”しているだけなんだもの!」  自分は、至極真っ当な主張をしたつもりだった。しかし少年は、“話になりませんね”と首を振った。まるで自分がわからず屋であるかのような物言いにカチンとしてくる。 ――ふざけんじゃないわよ。あんたも強姦魔の被害者にしてあげましょうか?あんたみたいなガキなら、男でも需要あるでしょ!  こいつも呪ってやろうか、と思ってすぐにそれが出来ないことに気づく。あのおまじないは、相手の名前がわからなければ使うことができない。自分は、この少年の名前を知らない。恐らくあちらもそれがわかっているから名乗って来ようとしないのだろう。なんとも不公平な話だ。臆病者はどっちなのだと言いたい。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加