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「どうやら話が全く通じない人種であるようですので、もう結構です。……ですがまあ、最後に一つだけ忠告しておきましょう。貴女が使っているそのおまじないは、本物の“魔女”が作ったものです。魔女の部屋の管理人である、“災禍の魔女・アルルネシア”が。まあ、僕はずっとそいつを追っかけているからこそ、貴女に行き着いたわけですが」
「アルルネシア……?」
「あの女は人を幸せにしようだなんて絶対に考えませんし、まともなおまじないを広めるはずもありません。そして、どんな魔法にも対価は必ずつきものです。そのおまじないが何故、“幸殺し”だなんて呼ばれているかわかりますか?……文字通り、幸せを殺すからですよ」
さあ、と彼は未散を指差して、宣言する。
「ここが、最後の退路。よく考えなさい。……このままおまじないを続ければ、貴女は自分の幸せを確実に殺す。人の尊厳を踏みにじったその対価は、普通の人間が到底払いきれるものではないのですから」
対価。このおまじないに、そんなものが本当にあるなんて考えたこともなかった。確かに大きな力を持つ魔法に代償はつきものだ。ファンタジーの多くの小説でもそういうことになっている。けれど。
――意味がわかんない。
自分は、ただおまじないをやっただけだ。
おまじないをやったせいで大きな怪我をしたとか死んだとか、そんな話など一部の都市伝説でしか聞いたことがない。
――そもそも私は自分の人生を邪魔するやつに正しい裁きを下しているだけ。そんなの、みんなやってることでしょ?ただそのやり方がおまじないだってだけで、私だけペナルティ喰らわないといけないとか、意味わかんないんだけど?
迷ったのは、一瞬。結論はすぐに出た。
自分は、間違ってなどいない。
「ガキのくせに、偉そうに説教するとかマジやめてくれる?何様のつもりよ」
吐き捨てて、未散は彼に背中を向けて立ち去った。
もう二度とこいつに会わなければいいと、そう思いながら。
そして、その数日後のことだ。
星野瞳が、未散が望んだ通り――暴漢に襲われ、病院送りとなったのは。
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