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自分には心底許せない相手がいる。高校で同じクラスの女子生徒、星野瞳だ。長い黒髪に長身、クールな美少女と転校当初から持て囃される彼女は、忌々しいことに成績も運動神経も悪くない。見た目に反して男っぽい喋り方、からっとした姉御肌な性格もあって男子にも女子にも人気と来ている。腹立たしいことこの上なかった。今なら白雪姫を暗殺したいと思ったお妃様の気持ちも分かろうというものだ――彼女が来なければ、クラスで一番の人気者は自分であったはずなのに、と。
昔は子役タレントをやっていたこともあり、未散は自分の見目には自信があったのである。瞳と違って身長こそないが、童顔で可愛らしい顔立ちの清楚系美少女だ、と自分を持て囃す声は少なくなかった。小学校から、高校まで。自分が微笑みかけて、落ちない男などいないと本気で思っていたほどである。
高校二年生の、今のクラスもそう。瞳が来るまでは自分こそが男達の視線を独占し、女子達には羨望のまなざしを受ける絶対の女王であったというのに。彼女が転校してきたせいで、全てが一変してしまった。男達はみんな、自分より瞳のことばかりを見るし、気軽に話しかけようとする。勉強を教えて欲しいとか、スポーツのコツを教えて欲しいとか、そういう意味でも彼女は人気を独占していた。美しさはあっても、成績は中の上、運動神経にはあまり自信がない未散にはできないこと。まるで、瞳に“お前には無理だろ”とばかり見下されているような気がしてならなかったのである。
――あいつさえいなければ、“白雪姫”は私だったのに。
自分は、白雪姫のお妃様になるつもりはない。
何故なら自分こそが白雪姫であり、あっちがその地位を無理やり奪おうとしている略奪者なのだから。
そしてお妃様のように愚かなやり方を取るつもりもないのだ。直接毒殺に行くなんて馬鹿がすること。今のご時勢なら、自分が手を下さなくても相手を不幸にする方法なんかいくらでもあるはずなのである。
――見るも無残な目に遭わせてやる。絶対不幸にしてやる!そして、この学校から追い出してやるんだから!
以前やった“落としものが見つかるおまじない”はすぐに効果が出たし、きっと今回も良い成果が期待できることだろう。
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