<5・ゆるされない。>

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<5・ゆるされない。>

 星野瞳の事件は、それはそれは凄惨なものであったようだ。  未散が狙った通りの展開だったのだろう。彼女は己が何らかの悪いものに取り憑かれていることを危惧して、友人達の誘いを断り一人で学校に来て、一人で自宅に帰ろうとした。足に怪我をしているので当然部活にも参加できず、精神的にも相当参っていたのでそのまま帰路についたという。  そして、路地裏に引きずり込まれて、暴行された。足を怪我していた彼女は逃げることができず、抵抗もままならなかったようだ。女子高校生としては運動神経が良く腕力もある方だったとはいえ、怪我をした状態で男三人に取り囲まれてしまってはなすすべがない。  彼女は手酷く乱暴されたという。それも、生半可なやり方ではなく。代わる代わる強姦されたばかりか、道具も使って酷く嬲られた結果凄惨な傷を負ってしまったそうだ。流石に詳細な事実は生徒達には伏せられただろうが、それでも特異な情報網を持つ紫苑には関係ないことである。 「流石に、罪悪感が酷いんですけど」  夜の公園で、再び菊乃紫苑(きくのしおん)はその人物と密会していた。滑り台の後ろにいる“彼”――桜美聖也(さくらみさとや)。と。 「さすがに瞳さんが気の毒です。彼女は何も悪くないのに。いくら……彼女が聖也、あなたの“パラレルワールドの同一人物”だといっても、ここでは顔が同じだけの別人じゃないですか」 「ちょ、紫苑クン?それ俺本人が被害者だったら気にしなくていいとかそういうこと思ってる?」 「思ってますよ?だって貴方はドMだから傷つかないでしょ」 「ひっで!その通りだけども!」  鬱々とした内容にも関わらず、交わされる声は酷く明るい。なんせ、自分達の目的はこれでほぼ達成されたも同然なのだから。  自分達は“魔女狩り”。あのWEBサイトの主、悪の魔法を世界に振りまく“災禍の魔女・アルルネシア”を追い続けている者。魔女のしっぽを掴むため、魔女のまじないを利用した井口未散を使うことにしたのである。  何故なら魔女が、悪しき魔法を振り撒く理由など嫌というほど今までの事件で思い知っているからだ。ただ退屈しのぎがしたいだけ。面白いものが見たいだけ。となれば当然、魔女本人はまじないを使う者の近くにいて、それを間近で見ている筈なのである。彼女の知り合いに変身しているのか、あるいはそのへんの物陰から未散のことをじっくり観察しているのかは定かでないが。  井口未散の運命は既に決定した。  彼女はただ“嫌いだから”というだけで、その相手が大怪我を、強姦を受けることも承知の上で呪いをかけたのである。けして許される罪ではない。そしてその罰はもうすぐ、彼女自身に因果応報として跳ね返ってくることになるだろう。
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