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――本当に、人間とは醜いものですね。
星野瞳は、人望のある少女だったようだ。病院には、彼女を心配するクラスメート達が何人も押しかけたという。
瞳は全治三ヶ月以上の怪我と診断されている。局部に大きな裂傷を負い、恐らくは子宮にも深刻なダメージが及んでいるのではないかという話だった。未散が念入りに人形に傷をつけた結果がこれである。彼女は女としての瞳に嫉妬し、憎悪し、瞳が女性として心身ともに使い物にならなくなることを狙って呪いをかけたのだ。
これが親の敵というのならばまだ分かる話である。しかし実際は、星野瞳はたまたま井口未散と同じクラスのクラスメートになってしまっただけに過ぎない。自分達が調べた情報通りなら、特に未散に対して攻撃的な言動を取ったり、無視するようなこともなかったそうだ。むしろ、本人は未散とも仲良くなろうと積極的に声をかけていったのに、未散の方にスルーされ続けてしまったという状況であったらしい。
そんな相手に、何故ここまでのことができるだろう。城木海斗に対してもそうだ、彼はただ瞳のことが真っ当に好きになって告白しただけである。それなのに、危うく命を落としかけた。今も入院していて、こちらも後遺症が残るかもしれないという話である。断じて、こんな目に遭っていい人間達ではない。
――罪には、罰。……その罰は井口未散、貴女が自ら下すことになる。あの魔女の考えた通りに。
もし未散が、少し嫉妬深いだけの少女なら。もう少し善意を持った人間ならば、紫苑も助けることを考えてはいたのである。
だが、彼女は紫苑の忠告を聞かない上、自らの歪んだ正義を疑わなかった。そして、けしてやってはいけないことをした。ならばもう、地獄に堕ちるのを止めてやる道理はない。
「そろそろ、本人も最後の仕上げに入るだろうさ」
「そうですね」
聖也の言葉に、紫苑は彼に背を向けて歩き出す。
目指す先は、住宅街の奥の一軒家。瞳が強姦されて長期入院確定となった今、未散も満足しておまじないを終わりにさせようとするだろう。サイトに載っていた通りならば、まじないに使った人形は特定の手順で処分しなければならないことになっているのである。ここまでまじないの真価を見た未散が、そのやり方を無視するはずがない。――それこそが、アルルネシアの望んだ通りの展開だとは露知らず。
――断罪の時ですよ、井口未散。
今夜、彼女の両親は旅行で自宅に帰ってこないということも既に知っている。それもきっと、運命が選んだ通りの結果ということなのだろう。
愚か者は、罰を下されなければいけない。それがこの世界の摂理というものである。
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