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おまじないのやり方は、至ってシンプルなものである。
少し大きめの消しゴムを買ってきて、ざっくりと人型に削る。人型といっても、本当に大雑把でいい。頭、両手足が大体わかれば問題ないそうだ。それを、リボンか布のようなもので胴体をぐるぐる巻きにするのである。あるいはお人形の服のようなものがあったらそれを着せてやってもいいそうだ。このリボンや布はつまり、人形の“服”の代わりというわけである。
また、布やリボンを巻く前に、背中部分におまじないの対象の名前を書く。油性ペンで、消えないようにすることが重要だそうだ。今回の場合は“星野瞳”。漢字が厳しかったら、平仮名やローマ字で名前を書いてもいい。その人形の名前が“星野瞳”であることが術者にわかれば問題ないそうだ。
その人形を三日間、丁寧に布の袋のようなものにくるんで持ち歩く。持ち歩いている時は絶対に人形に傷がつかないようにしなければいけない。
そして三日後、人形を取り出して任意の部位を削るのである。この行為を誰にも見られてはいけない。見られたら失敗して、自分に被害が返ってくることになる。そして、人形は削り過ぎてもいけない。ほんの少し傷をつける程度でも、おまじないは大きな効果を齎すからだ。
――三日間持ち歩いた人形は、傷をつける行為を実行した後もずっと肌身離さず持ち歩く必要がある……。そうすることで効果はいつまでも継続することになる。
未散はおまじないを実行した。
人形のどこを傷つけるのか、それが非常に重要な意味を持つらしい。そして、おまじないは三日ごとに、人形が完全に壊れるか対象が死ぬまで何度でも繰り返すことができるそうだ。よって、最初はあまり大きな傷をつけない方がいい。未散はとりあえず、人形の左手部分に針で小さく穴を開けてみたのだった。とても小さい、それこそよくよく目を凝らさなければわからない程度の傷である。それでも充分効果はある、とサイトには書いてあった。さあ、果たしてどうなるだろうか。
「痛っ……!」
効果は、おまじないを実行した翌日にはもう現れた。その日には美術の授業があり、皆が彫刻刀で版画を作っていたのである。瞳も、未散と同じように美術の専攻を取っていた。未散の目の前で瞳は彫刻刀をすべらせ、左手の指をざっくりと切ってしまったのである。
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