<1・おまじない。>

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 けして大きな傷ではなかったが、思ったよりも血が出てしまったことでちょっとした騒ぎになった。先生や生徒達が慌てふためいているのを、当の本人は笑って手を振っている。 「大丈夫大丈夫、大したことないから!みんな、気にすんなって、な!」  顔を僅かに歪めているあたり痛みは感じているのだろうが、それにしても強がりがうまい娘である。結局彼女がみんなに無駄に心配されて終わったのはシャクだったが、それでもおまじないには確かに効果があるらしいとわかったのは僥倖だった。この調子でおまじないを繰り返していけば、あの忌々しい女を病院送りという形で学校から追い出してやることもできそうである。 ――ふん、笑ってられるのも今のうちなんだから。  一度傷をつけたら、三日は持ち歩いて“気”を溜めなければいけない。すぐに次を実行できないのは忌々しいし、彼女がさほど懲りていないように見えるのは腹立たしかったが。そのうち自分の罪深さを思い知らせてやることができる、と思えばそこまで大きく腹も立たなかった。 ――プランを練らないとね。あんな小さな針程度であれだけ傷ができるなら、大きく傷をつけすぎるとすぐに終わってしまいそう。じわじわ甚振って恐怖を植え付けてから追い出してやらないと!大丈夫よ、私がおまじないでやったなんてこと、誰にもわかりっこないんだから。  帰宅部である未散は、学校が終わればそのまま家に直帰である。部活がある友人達と分かれて、いつものように駅へと向かう。今日は七限まであったこともあり、学校を出る頃には時刻は五時前になっていた。夏休みも終わったこの時期、日は少しずつ短くなりつつある。今の季節ならまだ大丈夫だろう、と私は近道をして帰ることにしたのだった。冬には真っ暗になってしまう住宅街の中を突っ切るルートを使うことにしたのである。  縁起淵(えんぎふち)高校から縁起淵南(えんぎふちみなみ)駅に至るまでの道は、間の縁起淵住宅地(えんぎふちじゅうたくち)を通るとかなり早く済む。暗い時期は明かりも少なく人気もまばらなので避けて通るというだけで、今の時期ならばまだ公園で遊んでいる子供もちらほら見かけるくらいだ。  住宅街の橋を渡り、ブランコと滑り台などの小さな遊具がいくつかあるだけの小さな公園をまっすぐ突っ切れば駅はもうすぐである。三日後の“おまじない”プランはどうしようか。そんなことをつらつら私が考えていた時だった。
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