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「そこの人」
唐突に、声がかかったのである。自分のこと?と思って見れば――ベンチに座っていた黒いコート姿の人物がゆっくりと立ち上がるところだった。
――ちょっと涼しくなってきたとはいえ、まだ秋の入口なのに……黒いコート?変なの。
中学生か小学生くらいの男の子、だろうか。疑問形になったのは、その子の顔立ちがちょっとみないくらい整っていて中性的であり、ぱっと見て性別が判断できなかったからである。やや青みがかった髪は短めで、声も少女にしては若干低かった気がするのでそう判断したまでだ。彼は未散より随分背が低かった。163cmある未散が少し見下ろす角度になるということは、あってもせいぜいきっと150cm代前半程度の身長しかないということだろう。
「な、何?」
「……貴女」
すたすたすた、と自分のところまで歩み寄ってきた彼。可愛らしい見た目の年下の男の子と思えば、眼福には違いないが――しかしおかしな子供である。そしてやや面食らっている未散に、彼は告げたのだ。
「貴女、魔女に力を借りましたね?」
「!!」
魔女。そう言われて、心当たりとなるのは一つしかない。あの魔女の部屋、のおまじないのことだ。しかし、何でそんなことを彼が知っているのだろう。そもそも、魔女の部屋、はあくまで管理人がそういう設定で運営しているだけ。本物の魔女なんて、この世にいるはずもないというのに――。
「な、なんなのよあんた!ていうか誰よ!藪から棒に私に何の用なわけ!?」
動揺を悟られないように怒ってみせたものの、叫んだ声は震えていた。もしも相手が成人男性などであったなら、大声出すわよ!とでも言って脅していたかもしれない。自分よりずっと華奢で小柄な少年であったから、恐怖より怒りと戸惑いが優っただけのことである。
「用というか、少しばかり不憫に思っただけです。あの魔女が善意で人に力を貸すことなど有り得ない。貴女は、利用されているのですよ。あの魔女の愉しみのためだけに」
「ま、魔女とか、何のことかさっぱり」
「“魔女の部屋”。あのWEBサイトを利用したのでしょう?魔女に関わった人間はわかるんです。僕は、彼女の呪いにかかっていますから」
警告しますよ、と。彼は淡々と言葉を紡いだ。まるで、未散の本心を見透かしたように。
「井口未散さん。魔女は、実在するのです。このままそのおまじないを続ければ、貴女は確実に破滅しますよ」
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