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<2・にくらしい。>
破滅するとは一体なんなのか。なんて失礼な少年なのか。お陰さまで、楽しい気分が台無しである。
――何さ、偉そうに!ちょーっと可愛い顔してるからってナマイキ!
未散はぷんぷんと怒りながら帰宅し、自室で人形を取り出して眺める。
本当はすぐにでも次の“攻撃”を仕掛けてやりたいところだが、ルール上あと三日は待たなければならないのが辛いところだ。いくらあの女を早く痛め付けてやりたくても、おまじないのルールを破るほど自分も馬鹿ではないのである。あのテのものは、ルールを破ると効果がなくなってしまったり、あるいは自分に悪いものが跳ね返ってくると相場が決まっているのだから。
――……けど、あいつ。なんで私の名前知ってたのかしら。
ごろん、とベッドに横たわる未散。あちらの名前も聞いておけば良かっただろうか。あの少年、あちらにだけ名前を知られている状況と言うのがなんだか不気味である。近所に住んでいる子、なのか。中学生くらいだったが、見かけた覚えはなかった。最近引っ越してきたのだろうか。田舎町だから、それならそれで誰かの話題に上りそうなものなのだが。
そもそもあんな綺麗な顔の男の子、あまり年下好みではない未散とはいえ、どこかで見たことが一度でもあれば覚えていそうなものではある。
――まあ、私は美人だし?どっかで名前知られるってことあるかもだけど?なんてたってアイドルの事務所にスカウトされたこともあるもんねー?
よくみんなに自慢する事実。未散はかのエヌケービーの事務所でタレントをやらないかと声をかけられたこたがあるのだ。アイドルとしてちやほやされることに興味はあったものの、ダンスができる自信がなかったので断ってしまったけれど。ああ、自分にもう少し体力があれば、今頃押しも押されぬトップアイドルだったかもしれないと思えば口惜しい。絶対、今テレビで踊っている気持ち悪い女どもより、自分の方が可愛い自信があるというのに。
――……そういや、あのスカウトマンこの近辺で探してるっぽいかんじだったし。あの女に声をかけるようなことがあったら、ムカつくわね。
よし、と未散は体を起こした。
手足を傷つけて不便な思いをさせてやるのも楽しそうだが、やはりここはあの女の顔を醜くしてやるのがいいだろう。男勝りとはいえ、女は女だ。額や頬に少しでも目立つ傷がつけば、それだけで相当なショックを受けるに違いない。そしてあの女の容姿が醜くなれば、あの女をちやほやしていた連中も一気に目を覚ますはずである。
ゆえに次に“攻撃”するべきは、人形の顔だ。問題は、顔を少し小さめに作りすぎてしまったせいで、どこが目でどこが口になるかまったくわからないということだが。頭の上の方に傷をつけるのがベターだろうか。流石に、失明させるまでいくのは少々後味が悪い。
――ふふん、早く三日後にならないかな!あいつをもっともっと傷つけて、苦しめてやるんだから!
思い付いてしまえば、その次、さらにその次といくらでもプランは沸いてくるものである。
そのままうたた寝をする頃には、未散はすっかりあの奇妙な少年のことを忘れてしまっていたのだった。
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