<2・にくらしい。>

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 ***  夜の公園のベンチで、一人佇む影。青い髪を夜風に靡かせ、黒いコートを来た少年はそっと手元の文庫本をぱたりと閉じた。まるで、何かの気配を感じ取ったかのように。 「紫苑」  滑り台の影に、もうひとつ影があった。紫苑、と呼ばれた小柄な青髪の少年よりも背が高い、別の少年だ。紫苑よりも濃い藍色の髪をしている。彼は物憂げな様子でため息をつくと、あのさぁ、と口を開いたのだった。 「紫苑さあ。……お人好しがすぎると思うんだけど」 「お人好し、とは?」 「井口未散のことだ。あんな程度の警告で済ますか、普通?あいつ、わかっててアルルネシアの力借りてんだせ?ちょっと嫌いな程度の相手に使っていいような呪術じゃないだろ、あれは。呪われた相手が気の毒すぎる。俺なら女だろうが関係なくブン殴って止めてるぞ」 「……」  少年の言葉に、紫苑は“そうかもしれませんね”と頷いた。まるで、そのような謗りを受けることなど最初からわかっていたとでもいうような口ぶりである。 「質が悪いのもわかっていますし、あんな警告をしたくらいで彼女が止めるとも本当は思っていません。星野瞳さんは本当に気の毒ですよ。たまたま人より美しく、才気と人望に溢れていたせいで悪意に晒されてしまうのですから。……だからこそ、井口未散は簡単には止まれないのでしょうが。少し考えれば、代償のない呪いなどないとわかりそうなものだというのに」  僕ね、と彼は続ける。 「あのテの人種、死ぬほど嫌いなんです。だから死ぬ寸前まで思い知らせてやりたくなるんですよ。罪もないのに悪意に晒され、切り刻まれる恐怖。ああいう手合いは、自分が味あわなければ理解しないでしょうから」 「ふーん?」 「一応警告はします。しかし、あくまで便宜上のもの。社交辞令のようなものとでも言えばいいのでしょうか。踏みとどまらなければあとは彼女の自己責任。ただ取り返しがつかなくなった時、思い知って後悔するだけなのですよ」  紫苑は立ち上がると、読んでいた文庫本をバッグにしまいこんだ。月明かりに、彼の青い髪がキラキラと照らされている。もう一人の少年の方にゆっくりと歩み寄る彼の口許は、微かに笑みを浮かべていた。  慈愛ではなく、嘲笑に近い歪んだ笑みを。 「僕は救世主でも正義の味方でもなく、ただの魔女狩り。その為に愚者がいくら犠牲になろうと関係ないのです。貴方もそうでしょう?聖也」 「…………」  不思議な密会を見ていた者は、ただ月の光のみである。
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