<1・おまじない。>

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<1・おまじない。>

 生理的に許せない、ムカついて仕方ない相手なんていくらでもいるものだ。  例えば、いつも自分を見下してくるように見える存在。あるいは、どんなに頑張っても叶わない相手。  こいつさえいなければ幸せになれるのに――そう思っても、人殺しなんてそうそうできるわけではない。バレたら自分が犯罪者として捕まり、人生を棒に振ってしまうことがわかっているからだ。どれだけ腹立たしくても、そいつを殺したせいで自分が不幸になるなんて冗談じゃない。だから、多くの人間はギリギリのところで犯罪を思いとどまるのである。あるいはもう少し善意や理性の強い人間ならば、“いくら憎い相手であっても、殺してしまっていいはずがない”というブレーキも働くのかもしれなかった。  では。その相手を害する手段が、絶対に他人にバレない、犯罪として立証できない類のものであったならどうか?  例えるならそう、おまじない、のようなものであったとしたら。 「幸殺しのおまじない、か」  魔女の部屋、と呼ばれるそのWEBサイトは、井口未散(いぐちみちる)とクラスの友人達の間でひそかに流行しているものだった。本当の効果があるおまじないがたくさん載っている、として有名なのである。  管理人が誰なのかは知らない。ただ“A”と名乗る“魔女”が運営しているとされている。彼女は自らを“異世界から来た魔女”を名乗り、“異世界由来の魔法をたくさん知っているから、人間達におすそわけしてあげるわね”という名目でサイトを開いているらしかった。勿論、そんなものを本気で信じている人間は殆どいないだろう。それでも、そんな設定も信じてしまいたくなるほど、彼女がサイトに載せるおまじないの類いは効果があったのである。内容は小さなものから大きなものまで多岐に渡った。失せ物探しから、受験の合格祈願、そして――嫌いな相手を不幸にする方法まで。  その中で、未散が見つけたおまじないこそ、“幸殺し”と呼ばれるものだったのである。 「へえ、物騒な名前だけど……やり方、簡単じゃん。なんかリスクがあるみたいなことも書いてないし」  未散はパソコンの前でにやりと笑った。
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