茶々

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茶々

翌日、金と銀は、角蔵の所へ出かけ、鍬やシャベルなどをリヤカーに積み また崖元に来て、リフトの乗降口にする為、ヤスエの家の前と道路際の 土を削り、平らな四角い場所を作る。 その間、角蔵は坂の傾斜や、長さ等の、詳しい寸法を測っていた。 太陽が、じりじりと照り付け、正午になる。 「こう暑くっちゃ、日中の外仕事は無理だ、今日は、この辺にしておくか」 角蔵は、二人が作った平らな場所を、満足げに見て言う。 三人は、ヤスエが作ったおにぎりで、お腹を膨らませると 「またな~」と、見送る二人に手を挙げた。 「明日は、葵が串本に、講習会に行くから、私達も付いて行きます。 何か、買って来る物が有りますか?」帰りながら、角蔵に言うと 「奥さんが、船の免許を取ってくれるなんてな~有難てぇ事だ」 角蔵はそう言って「ちょっと待っててくれ」と、家に入り 「この建材屋に行ってくれ」と、建材屋の住所と名前 注文する品を書いた、メモ用紙を渡した。 「これを、注文するだけで良いんですか?」 「そうだ、セメント10袋が、主だからな、持って帰る訳にはいかねぇ 次の定期船で、送って貰うんだ」「分かりました」と言う訳で 翌日、綾部の船で、串本まで来ると、葵と別れ建材屋へ向かう。 二人は、何時もの様にマスクをしていたが「ここらの人は、東京の人ほど マスクをしていませんね」「そうだな、やっぱり空気が綺麗だからかな」 等と言いつつ「あ、ここですね」建材屋を見つけ、注文を済ませると 「葵様の講習が終わる迄は、まだずいぶん時間が有りますね」 「そうだな、どこか行くか?」「そうですね~どこが良いかな~」 ぶらぶら歩いていると、映画館が有る。 「あ、この映画、面白いそうですよ」「じゃ、観るか」 「そうですね、丁度、時間的にも良いみたいですし」 二人は、初めての映画鑑賞に、挑戦する事にし、前に並んでいる人を見ながら チケットを買い、同じ様にポップコーンと、飲み物を買う。 「どうして、映画を見るのに、こんな物を食べたりするのかな」 「さぁ~よく分かりませんが、決まりなのでしょう」 中は、クーラーが効いていて快適だった。 席に座り、マスクを外して、ポップコーンを二人の間に置き スクリーン一杯の大きな画面と、大きな音に驚きながら 映画の内容に引き込まれて行く、二人の手は、知らない間に ポップコーンに伸び、映画が終わる頃には、すっかり無くなっていた。 館内が明るくなり、手元を見た二人は、空っぽのポップコーンの入れ物を見て 「そう言う事か」と、笑った。 外の眩しさに、目を細めながら「お昼過ぎたな、何か食べよう」 「じゃ、船着き場の食堂へ行こう、あそこなら、もう、小母ちゃんとも 顔なじみですし」「そうだな」と、またぶらぶらと、来た道を引き返す。 「それにしても、暑いな~」「マスクをしていますから、余計に暑いですね」 銀がそう言うと、金は、辺りを見回し 「ここら辺は、人が居ないぞ、外しても良いだろう」と、言う。 「そうですね、昼時ですし、この暑さでは、皆さん、家の中なのでしょう」 二人はマスクを取り「少しはマシですね」と、言いながら歩く。 「あっ、かき氷だ」「本当だ、食べてみましょう」かき氷は知っていたが 二人は、まだ食べた事は無い、苺とメロンの蜜を掛けて貰い 日よけの有る、店の前のベンチに座り「初のかき氷だ」「冷たくて美味しい」 と、言いながら、食べ始めた所へ、ドドドーッと、地響きがして 走って来たのは、一頭の馬だった。 その、はるか後ろから、血相を変えた男が走って来る。 「放れ馬だっ」二人は、かき氷をベンチに置き、銀が、両手を広げて 馬の前に飛び出し、馬が驚いて止まった所を、金が横から手綱を掴んで 「どうどうどう、よしよし」と、首筋を叩いて、落ち着かせた。
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