銀との生活

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店の入り口で、籠を持った葵は「銀、欲しい物が有ったら この籠に入れてね」と言った。 銀は、店一杯に並んでいる棚に、溢れんばかりに並べられている品物に 圧倒されたが、その品物の殆どが、何に使う物かさっぱり分からなかった 「まず、銀のお茶碗を買おうか」葵はそう言って、食器コーナーへ行った さすがに食器は分かる、銀は、あれこれ見ていたが「これは愛らしい」と 手に取ったのは、可愛い猫が描かれているお茶碗だった。 しかし、それは子供用だったので、小さかった。 「銀、それは子供用で小さいでしょ、何杯も、お代わりする事に なるんじゃない?」「そうですね、残念です」 銀は、手に取ったお茶碗を、棚に戻した。 葵が、二つ下の段を見ると、同じ絵のついた、子供用の丼が有った。 大人の茶碗と、同じ位の大きさだ「これなら良いんじゃない?」 葵がそう言うと「おお、これなら良いですね」銀は、大喜びで その丼を、籠に入れた。 「湯飲み茶わんは、どれが良いかな」「これが良いです」 銀が手に取ったのは、お寿司屋さんによく有る、魚編の字が ぎっしり書かれている物だった。 「これ?」「はい、沢山の文字が書かれていて、面白いです」 「じゃ、これにしよう」洗面所で使うコップは 「見た事の無い、綺麗な花が描かれているから」と 薔薇の花柄の物と、銀が選ぶのは、どれも意外な物だったが 銀が良ければ、それが一番だと葵は思った。 葵は、木べらや、菜箸を籠に入れ「メモ帳が、欲しいわ」と 文具コーナーへ行った、銀は、文房具も、見た事の無い物ばかりで きょろきょろしていたが「葵様、これは筆ですか?」と指差したのは 筆ペンだった「ああ、それは、筆で書いたような字が書けるペンよ」 「ペン?筆では無いのですね」銀は、ちょっとがっかりした顔になった。 筆と言う文字に、やっと自分が知っている物が有った、と思っていた様だ そんな銀に「筆ペンはね、筆と違って、墨が無くても掛けるのよ」と 教える「墨を使わなくても、書けるんですか?」 銀の目は、たちまち興味津々に輝く。 「買って帰って、どんな風に書けるか、試すと良いわ」 葵は、筆ペンと、落書き帳を、籠に入れた。 銀は「可愛いですね~」と、落書き帳の表紙の、動物のイラストに見とれ 「この白と黒の動物は、何ですか?」と、聞く。 もう、レジに並んでいたので「後でね」と、葵は、小さな声で言った。 レジを終えて、一階に降りるエレベーターの中で 「さっきのは、パンダと言うのよ」と、教える。 「パンダですか?江戸時代では、ついぞ見かけぬ動物ですが」 「うん、お隣の国の、中国の一部の地方しか居ないんだって」 「では、珍しい動物なんですね」 「そうよ、日本では、動物園にしか居ないの」「動物園とは?」 「色々な動物を集めていて、皆が見に行く所よ」「そうですか」 銀を動物園に連れて行ったら、絶対喜ぶだろうな~兄者から石を借り 力を満タンにしたら、連れて行ってやろうかな、葵は、そう思った。 一階で、必要な食料品を買って行ったが、野菜や魚、肉、どれを見ても 銀は、葵を質問攻めにした。 だが、弁当と総菜を売っているコーナーに来ると、質問は止み 目はらんらんと輝き「葵様、葵様」ずらりと並んでいる山の様な揚げ物や お寿司を指差し「これ、全部、すぐ食べられる物では有りませんか? 何とも、良い匂いで御座いますね~」と、言って、唾を飲み込み お腹は、ぐうぐうと派手な音を立てた。 「ふふ、すっかりお腹が空いちゃったね、好きな物を、この入れ物に 入れると良いわ」葵は、傍に置いてある、プラスティックの容器を 銀に、持たせた「ああ、これも美味しそうだし、これも食べてみたいし」 銀は、散々迷って、それでも容器一杯に、食べたい物を詰め込んだ。 「じゃ、お会計をして帰ろっか」直ぐにでも、食べたそうな銀の為に 葵は会計を済ませて、店を出た。 家に帰ると「銀、マスクを外して、ゴミ箱に入れて頂戴 それから、手をしっかり洗ってね」葵は、手洗いの重要さを教えた。 「さぁ、ご飯にしましょう」葵は、買って来た総菜を皿に移し レンジで温めて、炊飯器を開けた。 出掛ける前に、セットしておいたので、ご飯は炊きあがっていて 保温状態になっている。 「これが、今のお釜ですか?薪も炭も、使わないんですね」 銀は、不思議そうに炊飯器の中を覗き込んだ。 「今は、薪じゃ無くて電気で炊くのよ」そう教えながら ご飯を大盛りにして、銀の前に置く。
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