銀との生活

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「電気とは?」と、聞こうとしていた銀は、大盛りのご飯を見て 直ぐに手を合わせ「頂きます」と、言った。 そして、物も言わずに、ご飯とおかずを、ぱくぱくと食べて行く。 「美味しい?」葵が聞くと「はい、昨夜の握り飯も、今日のご飯も 白米なので、美味しさは格別です」銀は、食べながらそう答えた。 「今までは、白米じゃ無かったの?」 「はい、吉屋は、他所の店より食事が良いと 奉公人からも喜ばれていました、朝は、米と麦が半々の飯に 味噌汁、漬物、昼食は、それに魚や、野菜の煮物が付き 夕食は、お茶漬に梅干しと言うのが基本で、何か祝い事が有ると 白米の飯とか、小豆飯でした」 他の店より良いと言うが、随分質素だと思った。 「おかずが、極端に少なかった様ね、お腹、空かなかったの?」 「おかずは少ないのですが、ご飯は、腹いっぱい食べていましたから」 「ふ~ん、ご飯で、お腹を一杯にしていたのね」 「はい、この様におかずが多いと、ご飯も少しで良いんですね もう、お腹が一杯です」銀は、買って来たおかずを、全部平らげて言った 「今までは、ご飯、何杯食べていたの?」 「この器なら、3~4杯でしょうか」「凄い量ね」 「公方様は、一日二食なのに、吉屋では、一日三食、有り難い事でした」 「なぜ公方様は、二食だったの?」公方様と言えば、将軍様だ。 「公方様は、質素倹約と言う政策を掲げておられまして、自らも 実戦なさっておられたのです」「ふ~ん、公方様って何様だったの?」 「八代様、吉宗公で御座います」「あ~有名な将軍様だよね」 「その政策で、贅沢は出来なくなり、呉服も売れなくて 吉屋の内情は、火の車でした」「え~っ、大変じゃない」 「はい、私も、遊んでいる訳にも行かず、寺子屋に雇われて 子供達に字を教え、手に入れたお金を、食い扶持として納めていました」 「私の祖先も、銀も、苦労していたのね」 「苦労と言う事は有りませんが、ただ一つ、ボロボロになった鉄扇が 使えなくなったのですが、買う余裕も無く この木扇で、何とか凌いでおりました、幸い、吉屋さん夫婦は とても良い人だったので、人から恨まれる事も無く、怨霊払いは 木扇で十分でした」銀は、葵が淹れて呉れた、お茶を飲みながら 木扇を出して見せた、それは固そうな木で作られている扇だった。 「これで、あの怨霊も切ったのね」「はい、あれ位の雑魚なら これで十分ですが、もう少し強い物が来ると、やはり鉄扇で無いと、、」 「鉄扇って、初めて聞くけど、どんな物?」 「その名の通り、鉄の扇です」「鉄で作った扇?」 「はい、武士が、刀を差して行けない所では、鉄扇を持参して いざと言う時の、刀の代わりにしていたのです」「ふ~ん」 「先ほど行った、リサイクルショップでは、刀は有りましたが 鉄扇は無かったです」銀は、そんな所も見ていた様だ。 「刀は、今でも収集している人も居るからね でも、鉄扇ってきかないな~」食事の後片付けをして 葵は、パソコンに向かった。 鉄扇って、どんな物だったのか、どこかの歴史サイトに載っていないかと 「鉄扇」と、打ち込み、検索ボタンを押した。 「うわぁ~」葵は、驚きの声を上げた「どうしました?」 「銀、鉄扇って、今でも売ってるわ」「何ですって?」「ほら、見て」 葵が指さす画面には、色々な鉄扇が、ずらりと並んでいた。 「おお~っ、これは凄い」銀は、画面に釘付けになった。 銀が言っていた通り、鉄で出来ているように見える。 一体、今時、誰がこんな物を使うのだろうと、よく見ると インテリアにとか、コスプレにと書いてある。 なるほど、そういう使い道が有るんだわ、葵は、納得した。 そして「八寸って、24センチ位だよね、その木扇より小さいわね」と聞く 「はい、やはりこちらの様に一尺は無いと」銀は、木扇を見せて言う。 サイズも、色々だったが、値段も色々だった。 「あ、これは、インテリアやコスプレ用じゃ無くて ちゃんと護身用って書いて有るわ」それは、やはり頑丈な造りの様で 値段も、一万円を超えていた、他にもまだまだ、良さそうな物が有る。 「銀、これが一番凄いよ」「何と、見事な」 銀が、うっとりと見ている物は、五万円を超える物だった。 「折角買うんだから、この良いものにしよう」葵は、そう言って 購入手続きをする「これ、買って下さるのですか?」 銀は、驚きと嬉しさで、頬を紅潮させた。 「だって、銀は、私の為に悪霊と戦ってくれるんだもの これ位は、させて貰うわ」「有難う御座います」 「さぁ、これで良し、二、三日したら、手に入るわ」 二、三日したら、あの鉄扇を買いに行くんだと、銀の心は踊った。
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