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百均の隣の衣料品屋で、銀の下着やパジャマを買っていたので
昼食後は、そのタグを取って、洗濯機に入れる。
ぐるぐる回るドラムを見て「今は、何でも機械が仕事をするんですね~」
と、銀は、感心しながら見入っている。
「さぁ、片付けを手伝ってね」葵は、百均で買って来た
荷造り用のロープを取り出し、一郎の部屋の物を、片っ端からまとめ
銀がそれを縛って行く、マンションのゴミ置き場に、それを運びながら
「これは、ゴミとして捨てるのですか?」と、銀が聞く。
「ゴミとして捨てるのも有るけど、ほら、資源ゴミって書いてあるでしょ
ここに置いている物は、集められて、また違う物に再生されるの
ただ捨てられる訳じゃないのよ」「そうでしたか
このまま捨ててしまうには、あまりにも勿体ないと思って」
確かに、勿体ない物も有ったが
一郎の物は、出来るだけ目にしたく無かった。
何も無くなった一郎の部屋に、寝室に有ったベットの一つを運び入れ
銀が喜ぶ、カラフルな布や、紙を使い、今迄とは、がらりと変わった
まるで、子供部屋みたいな、銀の部屋が出来上がった。
自分好みの部屋を貰って、喜んだ銀は「こんな寝台まで、、
私が使っても、良いのでしょうか」と、遠慮がちに言ったが
「一人で寝るのに、ベットは二つも要らないでしょ」と、葵は笑った
笑ってはいるが、葵の心の痛手が、どんなに深いものか
銀には、よく分かっていた。
一刻も早く、この時代に慣れて、葵様の心が安らぐ様に
お手伝いせねば、銀は、強く決心した。
そんな銀のお手本は、テレビだった。
銀は、暇が有るとテレビにかじりついて、色々な情報を仕入れ
分からない事が有ると、あの落書き帳に書いて置き、葵に聞く。
「銀は、先生をしていただけ有って、綺麗な字を書くんだね~」
葵が言う様に、銀の書く字は、習字のお手本そのものだった。
特に平仮名は、優雅で流れる水の様だと、葵は褒めた。
「長い事、書いていますから、慣れているだけです」と、銀は照れながら
「でも今は、こんなに悠長に書いていては、間に合いませんね
言葉使いも、私の様に、ゆっくりしているのは駄目です。
出来るだけ縮めて言う、今の言い方を早く学ばないと」
出掛けた先で「葵様、、」と言う前に「銀、ドアが閉まるよ」と
言われたり「これは、、」と聞く前に「早く降りて」と、手を引かれた。
慌ただしい、今の時代に合う言葉を、葵や、テレビで聞いて
落書き帳に書き出して、練習していた。
「葵様、参りましょう」は「葵、行くよ」で「左様でございますね」は
「そうだね」等と書かれていたが、実際に使おうとしても
つい、今迄の言葉になってしまう。
「本当は、銀の言葉の方が、優しくて温かみが有って良いんだけどね」
葵は、そう言いながら「焦らなくても良いわよ」と、慰めた。
二日経ったが、葵は出かける気配は無い。
鉄扇を買いに行くのは、明日かなと、銀は思っていたが
チャイムが鳴って、誰かが来た「ご苦労様」と
段ボールの箱を受け取った葵は「銀、鉄扇が届いたよ」と言う。
「ええっ」店に行きもしないのに、なぜ鉄扇が届くのか?
「どうして?誰が届けてくれたのですか?」
「あのお店から、送って貰ったの、運んでくれたのは、運送屋さん」
葵は、流通の仕組みを、簡単に教えながら、箱を開けた。
「わぁ~凄い」「おお~っ、素晴らしい!!」
二人は、同時に叫び、葵は鉄扇を取り出した。
「結構、重いのね」そう言いながら銀に渡す。
銀は、長い間の願いが叶って、興奮状態だった。
「親羽にも、鳳凰の彫刻が施されておりますし、この図柄
龍で御座いますよ、何と素晴らしい!!」
銀が広げた鉄扇には、鋭い眼光で睨む、見事な金色の龍が描かれていた。
「見て下さい、朱色の房も最高です」銀が言う様に
漆黒の鉄扇に、朱色の房は、良く映えていた。
銀は、早速、腰のベルトに鉄扇を差して見せ「どうでしょう」と、聞く
「うん、なかなか良いわ、でも着物を着て、帯に差している方が
もっとカッコいいわね」「そうでしょうね」と言いながらも
銀は、鏡を見ながら、朱房の垂れ具合を直して
「私が、お仕えして来た姫君は、皆様、お優しい方でした。
そのお血筋でしょうが、葵様は、特にお優しいです」と、涙ぐんだ。
「銀、優しいって思うのは、まだ早いんじゃない?
私、意外と意地悪かもよ」葵が、笑いながらそう言うと
「いいえ、長い間、人を見てきた私の目に、狂いは有りません」
銀は、きっぱりと言った。
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