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「有難う銀、でも、銀の方が、もっと優しいわ。
今の私には、その優しさが、本当に嬉しいの」葵の言葉に
「有難う御座います、これから、もっともっと
葵様の為に、働けるよう頑張ります」銀も、嬉しそうに言った。
それから、二日目の夜「銀、もう寝ましょう、おやすみ」
葵がそう言って、自分の部屋に行こうとした時
「葵様、こちらへ」銀が、腰の鉄扇を抜いて、身構えながらそう言った。
「えっ」葵は、大急ぎで銀の後ろに行き、銀が見ている方に目を凝らした
「えいっ」銀は大きな声を発し、印を結んだ。
部屋の中に、大きな黒い影が入って来る、銀は、その陰に向かい
鉄扇を振るう、大きくて黒い影は、この前の影より嫌な感じが強かった
動きも早く、全ての影を打ち砕くのに、時間が掛かったが
それでも、粉々に砕かれて「怨霊め、去れっ」と、銀が鉄扇を開き
大きく扇ぐと、跡形も無く消えてしまった。
ふぅ~っと、息を整えた銀は「葵様、あれは女性の怨霊です
この手の怨霊は、何度でもやって来ます、気を付けませんと」と言う
「女性?誰だろう?」葵には、女性に恨まれる様な、心当たりは無かった
「葵様、都へ行って兄者を探しましょう、力を万全にしていないと
あのような怨霊は、打ち祓えいかも知れません」
「そうね、じゃ、明日は京都へ行きましょう」
葵も、あんな不気味な怨霊に、とり憑かれると思うと怖かった。
翌日、もしかしたら、一日では探し出せないかも知れないからと
二、三日分の着替えを持ち、マスクを掛けた二人は、新幹線に乗った。
「これは、この前の電車とやらとは、また違う乗り物なんですね」
銀は、長く連なる姿の美しさに見とれながら、そう言った。
「ええ、新幹線は、一番速く走れる乗り物よ」
「成程、それで遠い所への旅に向いているのですね」
銀は、最高速度は、時速250キロと言われても、その速さが、どれ位なのか
見当もつかなかったし、ひと宿も停まらずに、一刻半で着くなんて
どう考えても、信じられなかった。
動き出した新幹線が、凄い速さで走っているのは、窓の外の景色が
飛ぶように過ぎるので、なんとなく分かるのだが
その割には、籠で揺られる程も揺れないのが、不思議だった。
「何とも凄い進化ですね~」そう言って
外の景色に夢中になっていた銀は、やがて見えてきた富士山に目を瞠り
声も無く手を合わせて拝んだ。
「銀は、富士山を見るのは、初めてなの」葵が、スマホで撮った
富士山の写真を見ながら聞くと
「いえ、二度目です、江戸へお輿入れなさる
姫様との、旅の途中で見た事が有ります」と、懐かしそうに
その姫様の話をしていると、もう京都へ着いた。
「本当に、ここが都なんですか?」銀はまだ信じられないのか
辺りを、きょろきょろ見回した。
しかし、駅の中に有る、市内の案内図を見た銀は
「都だ、本当に都だ」と、興奮して叫んだ。
銀が良く知る、昔のままの、碁盤の目の様な京都の街だった。
「岩倉のお屋敷が有ったのは、どこら辺か分かる?」
「そうですね、御所の近くでしたから、ここらだと思いますが」
銀が指さした場所を見て「取りあえず、御所に行けば分かるかな」
京都の街は、良く知らない葵は、タクシーで御所に向かった。
そこから、銀の記憶をたどって、お屋敷が有ったと言う所に来てみたが
そこは、広い駐車場になっていて、観光バスや車で、ぎっしりだった。
「跡形も有りませんね~これでは、探しようが無いです」
銀が、がっくりと肩を落とした。
屋敷が無いと言う事は、どこかへ引っ越したか、もう、血筋は途絶えたか
どちらにしても、探すのは難しい。
「取りあえず、お弁当を食べて、お腹を一杯にしてから
どうするか、考えましょう」葵は、辺りを見回して
近くに有る、木立の中へ入り、木の切り株に腰を下ろした。
銀の顔は、そのままでは、人の目に留まる。
モデルかアイドルと間違えられて、観光客の写メの嵐に会いそうだった。
ここなら、人目も遮られる、銀がマスクを取っても大丈夫だ。
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