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二人は、すごすごと降りて来た。
銀が「いったい、どうした事でしょう」と、肩を落とし
「いくら時が経ったとはいえ、あれほど大きな石が無くなるとは」
金も、信じられないと、唇を噛む。
その時、腰の曲がったお爺さんがやって来て、神社に向かい
パンパンと柏手を打って、お辞儀をし、お祈りを済ませた。
「お爺さん、ちょっとお聞きしたいのですが」
葵は、その老人に声を掛けた。
「はいはい、何でしょうか?」「あそこに、大きな石が有った筈ですが
どうして無くなったのですか?」
「ああ、双子石ですな、あれは砕いてしまったんです」
「ええっ、砕いたとは、何と罰当たりな」「いつですか?」
金と銀は、老人に詰め寄った。
「もう30年も前の事になりますが、その年は、大雨が続きましてな」
その雨の所為で、崖の半分が崩れてしまい、続いて、その上が崩れるのは
時間の問題だった、崖が全部崩れてしまえば
その上に有る巨大な石が転げ落ち、坂道の下の集落を潰してしまう。
「その頃は、この神社のすぐ近くにも民家が有りましたし
その先には、小学校も有ったのです」
次の雨が降るまでにと、焦っていたが、高い崖の上の巨大な石は
当時の機械を使っても、降ろす事は出来なかった。
この崖までは、川の横に有る細い道しか無く、大型のトラックさえ
入れなかったからだ。
仕方なく、爆薬を使って石を砕き、村人が総出で
砕いた石を、広い道まで運び出し、トラックに積み込んだのだと言う。
「それで、砕いた石は、何処へ有るのですか?」
「海を埋め立てる所へ、持って行ったそうじゃ」
「海、、、」金と銀は、更に肩を落とした。
「石が無くなった翌年、子供達に変な病気が流行り
母親達が、あの乳石が無くなった所為だと騒ぎだし
砕かれた石の無念を鎮めようと、この神社を建てたのです」
「そうでしたか」話し終えると、老人は、神社の周りの掃除を始めた。
「さっき、爆薬で砕いたと言いましたね、もしかしたら
欠片の一つ位、そこらに転がっているのでは」銀がそう言い出し
二人は、また崖に登って、くまなく探したが、何も見つからなかった。
諦めきれないのか、砕いた時、石が飛んだかもしれないと
林の中まで探したが、駄目だった。
「葵様、有りません」「もう、30年も前の事ですものね~」
がっかりしている二人に、葵も慰めようも無かったが
「取りあえず、兄者も私の家に来たら?
そのうち、何か良い解決策が見つかるかも知れないわ」と、提案した。
「そうですね、兄者、そうしましょう」
「そうだな、暫く、今の世界を見るのも、楽しそうだし
宜しくお願いします」金は、葵にそう言って
「折角買って頂いた靴が、泥だらけになってしまいました」と
靴を見せた「あっ、私のも」山の中を、夢中で探していたのだろう
二人の靴は、泥だらけだった「これじゃ、電車にも乗れないわね」
葵がそう言うと「そこの川で、泥だけでも落としましょう」
銀がそう言い「じゃ、これを使って」と、葵から
タオル地のハンドタオルを渡された二人は、川へ降りて行った。
葵も、後から続く、綺麗な水が流れている小川だったが
「あ、魚が居る」小さな魚の姿が見えた。
「小さいけど、良い川ね~、故郷の川を思い出すわ」
葵がそう言った時「兄者、これっ」と、銀が叫んだ。
「おおっ、間違い無い」金も興奮した声を上げる。
「どうしたの?」「見て下さい、石の欠片が」そう言って
銀が川の中から取り出したのは、10センチ程の長方形の石だった。
「こんな所に有るとはな~」二人は、嬉しそうに、その石を見て
「きっと此処で、作業した道具を洗ったんだね」
「そうだ、その道具に付いて居たんだろう」銀は、タオルで水を拭き
金が、大事そうに、上着のポケットに入れた。
「欠片が見つかって、良かったね、さぁ、帰りましょう」
三人は、来た道を戻り、駅の傍まで来た。
「そうだ、あそこに寄ってみましょう」葵が指さしたのは
三宅石材と言う、看板が有る石材店だった。
何をするんだろうと、金と銀は、葵の後から店に入る。
「こんにちは」「やぁ、いらっしゃい」ここの店員も老人だった。
葵は、金のポケットの石を見せ「この石を、これと同じ形にして下さい」
と、金の依り代の石も見せた。
「これかい、お安い御用だ」老人はそう言うと、傍の低い椅子に腰かけ
石を削る道具のスィッチを入れた。
「ブィ~~ン」その機械に当てられた石は、大きな音を立てて
みるみる、小判型に削られて行く。
店と言っても、作業場の続きみたいな店内で、墓石だの灯篭だの
並んでいる商品を見ていた金と銀は「これは、、」と言って
顔を見合わせた「なぁに?」葵も見ると、30センチ足らずの
小さな、お地蔵さんの彫り物だった。
「この石、私達の石です」「えっ、ほんとなの?」
「はい、間違いありません」二人は、きっぱり言った。
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