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葵が、近付いてよく見ると、確かに、さっきの石や
金の持っている石と、同じに見える。
「どうしてこんな所に」「しかも地蔵様に」と、三人が話していると
機械を止めた老人が来て「可愛いでしょ、買って行きませんか?」と言う
「この石は、どこで手に入れたのですか?」葵がそう聞くと
「どこって、、」老人は、三人の真剣な顔を見て
「いやぁ~その石は、拾った物なんですよ」と、頭を搔きながら言った。
「拾ったって、どこでです?」なおも、そう聞く三人に
「あ、ほら、そこですよ、店の前の道です」「道で?」
「はい、あの時は、長雨で、道路のあちこちに陥没が出来て
その上を通ったダンプカーが、ガタンと揺れて石が転がり落ちたのです
拾ってみると、何とも味が有る石だったので、お地蔵様に彫ったのですが
小さい所為か、ちっとも売れなくて、30年も埃を被ったままなんですよ」
老人はそう言って、傍に有ったタオルで、ごしごしとお地蔵様を拭いた。
こんな若者が、石に興味を示すなんて珍しい
何としても、この地蔵を売りたい、そう思った老人は
「小さいですからね~狭い所でも置けますよ」と、勧めた。
「お幾らですか?」葵が値段を聞くと「二万円、、」
ちょっと小さな声で、ぼそっと言う。
「二万円ですか?」「あ、いや、一万五千円で、、」
「えっ、五千円も安くして下さるのですか?」そう言う葵に
「いや~材料はタダだし、若い時に彫ったので、出来もいまいちなんだが
飲み屋のツケが溜まっておってな、月末までに、二万円払わないと
出入り禁止になってしまうんだよ」老人は、そう言って、また頭を搔いた
「まぁ」葵は、くすくす笑って「では、二万円で頂きます」と、言った
老人は、ぱっと顔を輝かせ「本当かい、いや~嬉しいなぁ
じゃ、これの分は、タダにするよ」と
綺麗に削った、さっきの石を葵に渡した「有難う御座います」
三人は、紙袋に入れて呉れたお地蔵様を持ち、店を出た。
「よく、30年も持っていてくれましたね~」
「本当に、捨てないでくれて良かったです」
金と銀は、よほど嬉しいのか、にこにこ顔で、足取りも弾む。
「あ、あそこで一休みしない?」葵は、お菓子とカフェという
看板の有る店を指差した。
お菓子屋さんの店内に、三卓のテーブルが有り
そこで買ったお菓子も食べられる、という店だった。
「さぁ、好きなお菓子を選んで」葵の言葉に
ショーケースを覗いた二人は「あ、餡子ぎっしりだって」
「おおっ、雪の様に白い三角に、見た事も無い大きな苺が乗っておる
これも、菓子なのか?」等と、賑やかだったが
葵は、餡子ぎっしりの饅頭と、苺のショートケーキを三人前に
二つのお茶と、自分の珈琲を頼んだ。
ここの店員も、お婆さんだった、この村に来て、まだ若者には
一人も出会っていない、この様子なら、金と銀の顔を見せても
大丈夫だろう、そう思った葵は、この店で、休憩する事にしたのだ。
「どうぞ」お婆さんが、おしぼりと水を運んで来た。
「このお絞りは、熱いから気を付けてね」葵はそう言って
二人のマスクを外させ、またビニール袋に入れる。
言われていたのに、二人は、熱いおしぼりに驚いた後
店内に置いてある観葉植物などが、気になる様で、きょろきょろしている
直ぐに、お菓子と飲み物が運ばれて来た。
二人は「見て下さい、こんなに餡子がぎっしりです」とか
「この、ショートケーキとやらは、口の中で溶けてしまいました
初めてですが、実に美味しいです」等と、喜びの声を上げる。
そして「葵様の飲み物は、真っ黒ですね、そんな物が美味しいのですか」
金も、銀と同じ事を聞くので、葵は、可笑しくなった。
「兄者、苦くて真っ黒だけど、いい香りで、体にも良いのだ」
銀が、葵に代わって説明する、全く同じの、美しい二人の顔を見ながら
「このお地蔵様は、どうする?」葵はそう聞いた。
「また、あの崖の上に置く?それとも神社に飾って貰う?」
二人は、顔を見合わせ「そうですね~」
「何しろ小さいですから、崖の上に置いても、子供が悪戯をして
持って行くかも知れませんし」
「神社に、お地蔵様って言うのも変ですし」
「どうでしょう、葵様のお傍に置いては頂けませぬか」二人の言葉に
「それは構わないけど、兄者は、このお地蔵様の中で眠るの?」
「はい、そうなりますが、折角呼び出して貰えましたし
銀と共に、もっと、この時代を見たいと言う思いが、強く有ります
どうでしょう、今しばらく、葵様の元で、住まわせては頂けませぬか」
金はそう言った。
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