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「おかしいですね~」「もしやして、誰ぞに間違えておるのでは?」
金がそう言うと「そうかも知れないわ、だとしたら、誰なのか
全く分からないわね」と、葵が言い、銀も腕を組んで
「相手が分からないのでは、手の打ちようが有りませぬな」と
顔を曇らせた。
「ですが、怨霊祓いの我々が、いつも傍に居ます。
いかなる場所で襲って来ても、葵様は、守ってみせます」
金は、力強い声で言ったが「しかし、兄者は刀で祓うからな~
外では無理だよ」と、銀が言う。
「刀?」「これです」銀が、京都に行く時に持って行った
バックの中から、30センチ程の、小さな刀を取り出した。
鞘は、黒い漆塗りで、金色の鶴が描かれている、豪華な物だった。
「兄者、こんな物を持っていたの?」初めて見る葵は、目を丸くした。
「はい、こんな物を持っていたら、警察に捕まると思って
着替えさせた時、バックの底に仕舞っていたのです」
この数日の間に、銀は、色々な事を学んでいた様だ。
「若君への怨霊祓いは、この刀と決まっていたのですが、今の時代は
刃物を持ち歩いてはいけないのですね」と、金が聞く。
「ええ、許可が有れば、手に入れる事は出来るみたいだけど
持ち歩くのは駄目ね、二人には、戸籍も無いから
許可も取れないと思うわ」「困りましたな~」
今度は、金が腕組みをして困った顔になった。
「そうだわ、兄者にも、銀と同じ鉄扇を買えば良いんじゃない?
刀で無いと切れない様な、強い怨霊って、そうそう居ないと思うけど」
葵の言葉に「そうして頂けると、本当に嬉しいです」
銀は、そう言って顔を輝かせ「もし、強い怨霊が来ても、銀と二人なら
鉄扇で十分です」と、金も、明るい顔になった。
「じゃ、早速、頼む事にしましょう、あ、それからこれ」
葵は、京都で買った、和柄の小さな袋を二つ取り出し
その一つに、金の依り代の石を、もう一つには、あの川で拾った
新しい銀の依り代を入れた。
そして、飾り棚に置いてある、お地蔵様の足元に置き
「これで、力が減ったら、いつでも補充できるね」と言った。
「はい、いろいろと有難う御座います」
二人は、葵にお礼を言い、お地蔵様に手を合わせた。
翌日から、三人は、金の為の洋服や、身の回りに必要な物を買い揃え
銀の部屋は、二人の部屋になった「ベットが、もう一つ要るわね」と
葵は言ったのだが「いいえ、一つで良いのです、交代で寝ますから」
二人はそう言って、毎晩、交代しながら葵を守っていた。
三日後、金の鉄扇が届き「何とも見事な、、」金は、惚れ惚れと見た後
腰に差した、銀の鉄扇と、全く同じだが、区別できるようにと
房だけは、紫色にした。
お揃いの鉄扇を腰に差し、にこにこしている二人を見て
ふと、これで、お揃いの着物を着せたらと、葵は思う。
着物が良く似合う、浮世離れした美形の双子、誰もが見とれるだろう。
もし、江戸時代だとしても、当時の人気浮世絵師も
書きたい姿だろうな~と、葵の妄想は広がった。
そんな二人は、驚異的な速さで、今の時代に慣れて行き
歴史の本なども、図書館から借りて、猛勉強している様だったが
外に出る時は、必ずマスクを掛ける、その二つの理由も
しっかり分っていた、病気の予防と、この世にいる筈の無い自分達は
人に知られてはならない存在だと言う事を。
そんな二人に、見た事の無い物を体験させてやりたい、その思いで
動物園や水族館、植物園や遊園地など、色々な所へ連れて行ったが
その喜びようは、思った以上で、二人につられて楽しむうちに
葵の弱った心まで、明るくなって行った。
ある日、バイクを運転している若者を、羨ましそうな目で見ている二人に
葵は、自転車を買ってやった。
「バイクは無理だけど、自転車なら免許は要らないから」
「葵様、有難う御座います」大喜びの二人は、早速、人が少ない公園で
乗る練習をしたが、身体能力が抜群に高い二人は
直ぐに乗れるようになり、近場では、満足できない様だったので
「昼間は、怨霊の心配は無いから、行ってらっしゃい」
弁当を作ってくれて、そういう葵に「では、お言葉に甘えて」と
仲良くサイクリングに出掛けた二人は、隣りの県まで走り
広い河原に寝転んだ。
青い空を見ながら「楽しいですね~」と、銀が言う。
「ああ、馬と違って、自分の足で走らせるのが
こんなに楽しいなんてな」金も、流れていく雲を見ながら言う。
「私達、葵様の守り手なのに、お世話になってばかりですね」
「そうだな~色々な物を買って頂いて、随分お金を使わせてしまった」
「今の時代は、水を飲むのさえ、お金が要りますからね」
「そうだな、この上なく便利に暮らせるが、その全てに、お金が要る」
「我々にも、お金が貰える様な仕事が有ると良いのですが」
「無理だろう、私も、色々調べてみたが、戸籍も無い身では
まるで駄目だったよ」「やっぱり、駄目なんですね~」
二人は、深いため息を吐いて、リュックの中の弁当を出した。
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