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新しい毎日
まだ、一郎への心は残っているかも知れない。
だが、それに区切りをつけて、新しい生活に向かっている。
それを、ひしひしと感じた徳田は「お騒がせしました、葵さんには
何もやましい事は無いと、きっちり麗華様に報告します」
と、言って帰って行った。
「葵様、これで怨霊の正体は、分かりましたね」と、銀が言う。
「そうね、まさか麗華さんが、そんな風に思っていたなんて」
「結婚はしたが、夫の心は、自分に無い、それは葵様の所為だという
恨みですね」と、金も言う。
「私を恨むのは勝手だけど、弱い立場の人を使って、二人が会っているか
調べさせるなんて、困った人ね」「どうします?」と、銀が聞く。
「う~ん、この問題は難しいわね、他の人が、何でも無い、違うんだと
言えば言う程、麗華さんの疑いは、深くなっちゃうかも知れないのよね」
「そんなものですか?」「ええ、病院に勤めていた時は、事務員さんや
ナースさん達の、女性特有の色々な問題が、多かったからね~」
「では、葵様が、その方に会って、違うと説明するというのは?」
「逆効果になりそうね、徳田さんにも迷惑が掛かるし
打つ手が無い事も無いけど、今は、無理かな~」
一郎に言えば良いのだが、今はまだ、会いたくなかった。
「それはそうと、あの人に、来月から働くと言っておられましたが」
金がそう言った。
「ええ、貴方達も、もう留守番をさせても大丈夫だし
そろそろ働こうかと思って、今日、話を決めて来たの」
「どんなお仕事ですか?」と、銀が聞く。
「また病院で、事務をするの、私には、それしか出来ないから」
「我々も、何か仕事が出来れば良いのですが」と
金が、心苦しいと言う顔をした。
「あら、貴方達は、私の傍に居てくれるのが仕事でしょ。
私は、二人が居てくれる事が、一番嬉しいのよ」「葵様、、」
二人は、目をパシパシさせた。
「さぁ、今日はどんな所まで走ったの?写真を見せて」「はいっ」
二人は、葵が買ってくれたデジカメを取り出して
自転車で走った場所の、色々な景色を見せながら、話に花を咲かせた。
「ねえ、仕事を始めるまでに、京都へ行かない?」
葵は、二人にそう言った。
「都へですか?」「ええ、貴方達も知っている神社や仏閣が
今も残っているのを見たくない?」「見たいです!!」
「是非、連れて行って下さい」二人は、目を輝かせた。
葵は、この二人に、今の時期の美しい紅葉に映える
古の神社や仏閣を見せて、喜ばせたかった。
ゆっくり見たいだろうからと、京都で一泊する事にして、宿の予約を取る
二度目と三度目の新幹線にも、富士山にも、子供みたいに燥ぐ二人。
京都では、まだ、お守りを始めたばかりの、若君と姫君を連れて
見に来たと言う、神社や仏閣の前で
「あの時は、若様が」「ああ、姫様も」と、懐かしみながら
行く先々で、カメラのシャッターを押した。
宿で、浴衣に着替えた二人を見て
「やっぱり、二人には着物がしっくりくるわね~」と、葵は言い
「葵様、ここでは、マスクは要らないのですか?」と、心配する二人に
「ここは大丈夫、私達お客様のプライバシーは
しっかり守ってくれる所だから」と、教えたが
二人は、万が一と言う事を考えて、部屋からは出なかった。
これだけ慎重なら、仕事に行っても大丈夫だと、葵は安心した。
一泊二日の旅行は、とても楽しい物になり、沢山撮った写真を見ながら
毎夜の様に、旅の思い出を語る。
徳田の話を聞いて、少しは安心したのか、麗華の怨霊も出て来なくなった
やがて月が替わり、葵は、新しい職場、小田病院へ勤め始めた。
一郎の病院から、一番遠くて、篠原病院ほど、大きく無い病院だったが
葵は、事務員や医師、看護師らと、直ぐに仲良くなった。
しかし、働き始めて二週間ほど経った時、また麗華の怨霊がやって来た。
たちまち、金と銀によって、打ち払われたのだが
「また、恨みが湧いて来たようですね」二人は、そう言った。
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